高市早苗総理の「台湾有事」に関する国会答弁を巡り、日中関係が急速に悪化しています。
中国政府は次々と対抗措置を打ち出し、日本への渡航自粛を呼びかけるまでに至りました。
その影響はすでに関西地域の経済にも表れ始めています。
キヤノングローバル戦略研究所の上席研究員である峯村健司氏が、習近平国家主席の“怒り”の背景と、台湾有事の危機について解説しました。
■「台湾統一への焦り」習近平主席が怒る理由
習近平主席が日本に対して異例の強い反応を示している背景について、峯村氏は「台湾統一への焦り」があると指摘します。
「習近平氏が2012年にトップになった時に、政治スローガンを“中国の夢”と掲げました。この“夢”の中で、最も重要なものとして”統一の夢”を掲げています。統一というのは台湾を統一すること」と峯村氏は説明します。
さらに重要なのが任期の問題です。
中国の国家主席は、憲法で2期10年と定められていましたが、習近平氏は2018年に憲法を改正して、任期制限を撤廃しました。この改正時、国内から反発があったといいます。
【峯村健司氏】「かつての毛沢東氏が“文化大革命”や独裁で、いろんなことをやったことに対するトラウマがある人が結構多かった。反対が出た中で、習近平氏がどう説得したかというと、『私が台湾問題を解決して統一する。ただ、それでは2期10年では時間が足りない』と言った」
現在3期目に入っている習近平主席の任期は2027年までとなっていることから、「この段階で高市総理から(台湾有事の問題を)投げ込まれたことで、異常なまでに反発している」と今回の背景について語りました。
■中国の次の一手は「邦人拘束」増加の可能性も
中国政府はすでに、「日本への渡航自粛の呼びかけ」や「水産物輸入の事実上の停止」など、さまざまな対抗措置を打ち出しています。
峯村氏は、次の一手として「邦人拘束が増える可能性」を指摘しました。
「聞こえが悪いんですが、“人質外交”と呼ばれている、中国がよくやる手なんです」と峯村氏は話します。
2018年、アメリカの要請を受けてカナダ政府がHUAWEI(ファーウェイ)の副会長を逮捕した際に、報復として中国は中国にいたカナダ人2人を拘束。副会長が釈放されると、2人も釈放されました。
【峯村健司氏】「これまで日本人が17人拘束されていますが、これがもっと増えるのではないかという形で、日本に圧力をかけてくることを懸念しています」
さらに峯村氏は、「きのう(=19日)、邦人拘束などを扱う中国の国家安全省が声明を出した」と警告します。
普段あまり声明を出さないとされる組織が、『ここ数年日本のスパイ機関による中国へのスパイ事件を多く摘発している』と発表したことについて、「このタイミングで出すということは、報復として“日本人を拘束するぞ”という宣言に読める」と分析しました。
観光客でも「スパイ容疑」で拘束されるリスクがあると峯村氏は指摘します。
【峯村健司氏】「観光客の方でも写真を気軽にスマホで撮りますよね。ただ、中国にはいろんなところに“軍事管理区域”と呼ばれているところがあって、撮影禁止なんです。上海や北京の真ん中にもあったりするので、知らずに撮ってしまい、拘束されるリスクもある」
■「台湾有事はもう始まっている」
台湾有事は将来の危機ではなく、「もう始まっている。Xデーは2年以内か」という見方を峯村氏は示します。
【峯村健司氏】「中国の古典『孫子の兵法』で『戦わずして勝つ』という言い方がありますが、中国としてもできる限り武力を使わない形で、なんとか圧力をかけて統一したいと考えています」
「その手段として、サイバー攻撃や宣伝活動など、(今回の日本に対する圧力も)その一環が始まっている」と峯村氏は指摘します。
【峯村健司氏】「習近平主席の3期目の任期が終わる2027年までが1つのゴールとなる。これを考えると、2年以内に何か具体的な行動を起こす可能性が高い。今回の圧力もその一環であると見た方がいい」
台湾有事が現実になった場合、日本への影響も大きいと峯村氏は警告します。
【峯村健司氏】「私はこれを“新型統一戦争”と呼んでいますが、例えば台湾の周りを封鎖する。台湾は島なので、封鎖されて物流が止まると、食料やエネルギーがなくなり、『降伏しましょう、降参しましょう』というような形で、“台湾を無傷で取りたい”と考えると、こうした包囲戦略が有効です」
そして、台湾周辺の封鎖は日本にも直接影響するとし、「台湾海峡やバシー海峡は、日本にとっても重要な物流ルートで、日本の原油などの約95%がここを通っている。このルートを止められると日本にも大きな影響が出る」と峯村氏は説明します。
日中関係の悪化が長期化すれば、深刻な打撃を与える可能性が高く、両国の関係改善に向けた取り組みが求められています。
(関西テレビ「newsランナー」2025年11月20日放送)