「家族やスタッフが不安を抱えた」
10月に行われた宮城県知事選挙。その舞台裏で、政策論争ではなく、SNS上の暴言が渦巻いていた。
「移民にコイツの家族を襲撃させたらいい」「ご自分の嫁、孫をレイプしてください」。
宮城県議会議員の村上智行氏(自民)のSNSに届いたメッセージの一部である。
村上氏は、内容が脅迫にあたる可能性があるとして警察に相談。投稿はすでに削除されていたため、画面を印刷した資料を提出したという。
自由民主党・県民会議 村上智行県議
「度を超えた内容で、家族やスタッフが不安を抱えた。黙認できないと判断しました」
メッセージは知事選期間中に届いたもので、村上氏は「発信者情報の開示請求や民事提訴も視野に、毅然と対応していく」としている。
選挙戦を覆った“ネットの影”
今回の知事選で6選を果たした村井嘉浩知事は、SNS上で虚偽の情報が拡散されたと主張している。
特に「水道事業の外資売却」「土葬墓地の整備」「メガソーラー推進」
などといった情報が繰り返し投稿され、選挙戦は“ネット上の情報戦”の色彩を強めた。
村上氏が所属する県議会の最大会派「自民党・県民会議」は村井知事を支援していた。
村上県議
「選挙期間中に“何を言ってもいい”という状況がまかり通るのは許されない。公正な選挙環境を守るため、行動に踏み切りました」

自民県連「民主主義の根幹が揺らぐ」対策を党本部に要請
知事選後、自民党宮城県連の小野寺五典会長(党税調会長)と佐々木幸士幹事長は党本部を訪れ、SNS上のデマや誹謗中傷への対策を求める要請書を提出した。
小野寺会長は「民主主義の根幹にかかわる問題」と述べ、全国的な対策強化を求めた。
県としても村井知事の指示で、投票判断の基盤を揺るがすデマを防ぐため、ファクトチェック体制の導入を検討している。

“SNS選挙”が突きつける課題
SNSの普及により、候補者の発信も、有権者の反応もリアルタイムで可視化されるようになった。一方で、誹謗中傷や攻撃が一瞬で拡散し、候補者本人だけでなく家族や職場にも影響が及ぶ。
村上県議に届いたメッセージには、家族を危険にさらすような暴力を示唆する内容も含まれていた。政治的立場の違いが、容易に個人攻撃へと変質する構造が露わになった形だ。
村上県議
「政治家である前に、一人の人間です。家族を守るためにも声を上げました」

終わらない選挙、終わらない攻撃
SNSの拡散力は、言論の自由を支える大きな力だ。しかしその匿名性は、時に“民主主義を侵す脅威”へと変わる。
村上県議が受け取ったメッセージは、単なる誹謗中傷の域を超え、選挙という民主主義の根幹を揺るがす深刻な問題を示している。
“ネット選挙”が定着した今、選挙の公正さをいかに守るのか。宮城県知事選で浮かび上がった課題は、全国の選挙にも共通する警鐘となっている。

