旬を迎えている福岡・糸島市の新たな特産品を目指すレモン。馴染みのある黄色ではなく、緑色をしたレモンだ。漸く商品化されるようになったが、さらに特産品を目指した挑戦が、いま始まっている。
カフェで提供される“緑”の一品
博多の総鎮守、櫛田神社近くにオープンした1軒のカフェ。その名も『NOT SWEET』。甘くはないという店名が付けられている。
町家の雰囲気を残した店内に入ると奥行きのある空間が広がるこのカフェは、糸島産のレモンのコンセプトショップだ。その味わいをさまざまなかたちで楽しむことができる。

このカフェで出している商品のひとつが、見た目もお洒落な『糸島グリーンれもん』のソフトクリーム。黄色ではなく緑色のレモンを削りトッピングしている。ソフトクリームの甘さにレモンの爽やかな酸味がぴったり合い、口の中でレモンの香りも漂う。

そのほか、堂島ロールを手がける洋菓子店とコラボした商品は、クリームに糸島グリーンれもんを混ぜ込んでいる一品だ。

カフェを立ち上げた阿南文平さんは、元々は飲食店を経営するバーテンダーだが、7年前から、農家としてレモンの栽培も行っている。

「栽培される場所と使う場所の距離が近い福岡県内においては一番、新鮮フレッシュな状態で使えるレモン。糸島でレモンの栽培が始まっていることを知ってもらいたい」と阿南さんは話す。
エリアに残る耕作放棄地を再生・活用
それにしても気になるのは色だ。阿南さんの農園を訪ねた。レモンの実は、どれも黄色ではなく、青々としている。糸島グリーンれもんは、10月の初旬から、グリーンの状態で毎年、出荷されている。

国内で多く流通する海外産のレモンは、長時間かけて日本に届くまでに黄色に色付く。そのため緑のレモンは国産ならではの果物。しかも、収穫時期が10月上旬から僅か2カ月ほどと希少なのだ。
ひとくち齧らせてもらった記者によると酸っぱさはあるが、清涼感のある酸味だという。

その希少性から、糸島グリーンれもんは、2024年のバレンタインには、チョコレートブランド『ゴディバ』とコラボレーションした商品も販売されるなど少しずつ認知度が上がっているという。
阿南さんが栽培を始めたのは7年前だ。きっかけは「この糸島エリアには耕作放棄地が多くて、どうにかしたいという地域課題があった。糸島はもともとミカンなどの柑橘類を作っていたので…」と阿南さんは話す。

耕作放棄地を再生、活用するため、同じく飲食店を経営する知人と共同で荒れた農地を借り上げ、1本1本、レモンの木を植えていった。その数、合わせて全部で1千本にも及んだのだ。

しかし、レモンの栽培は順風満帆とはいかなかった。
カフェの店名『NOT SWEET』の由来
阿南さんは「3カ月後に、トマトみたいに植えてすぐ収穫できるわけではなくて、スパンが10年くらい。事業の採算まで。これだけ手をかける項目があるんだというのは、始めてから分かった」と当時を振り返る。
さらに皮まで食べられる阿南さんのレモンは、除草剤を使わないため草刈りだけでも一苦労だったという。

慣れない農作業やレモンの管理。一筋縄ではいかなかったその経験は、カフェの店名『NOT SWEET』の由来にもなっているのだ。

さまざまな苦労を経て誕生した糸島れもん。除草剤などを使わず、皮まで食べられることも特徴で、最近は全国から発注が増えてきているという。

阿南さんは「糸島の特産品となり『糸島といえばあのグリーンだよね』となったら嬉しい。とれたてのレモンがこれほどまでに香りが強くて素敵かということは知ってもらいたい」と特産品への挑戦を口にする。

阿南さんの熱意とこだわりが詰まった糸島グリーンれもん。12月からは黄色く色付き始めるためフレッシュな味わいを楽しめるのはあと1カ月ほどだ。
(テレビ西日本)
