「私は2代目の教祖になるわけだよね」──。
オウム真理教の後継団体「アレフ」で、麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚の次男が指導的地位にあることがうかがえる音声をフジテレビが入手した。地下鉄サリン事件から30年。肉声の分析や関係者への取材を通じて、教団の人事や賠償拒否の背景に、その次男の存在が浮かび上がった。血縁によって継承され、信者がいまも帰依を深めている教団の実態とは。
“グル”と自称
その日、記者のメールアドレスに数本の音声ファイルが届いた。
再生ボタンを押すと流れてきたのは、誰かに語りかける男性の声。 くぐもった声色の中で聞こえた一単語に、記者は耳を疑った。

「こういう風にさ、“グル”の意思。というか私の意思は色々示されている訳だけどさ」
“グル”――。
サンスクリット語で「師」を表すこの単語は、オウム真理教の教祖、麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚の教団内でのかつての呼称だった。
記者にメールを送信してきた人物は、この音声を同教団の後継団体「アレフ」内での会議中のものだとした上で、こう証言した。
「“次男”が教団に関与している証拠です」
今も1000人超の信者
オウム真理教は1995年、地下鉄サリン事件や松本サリン事件を起こし、日本中を震撼させた。

松本元死刑囚らは逮捕・起訴され、2018年に死刑が執行。教団は1996年の最高裁決定を受けて解散したが、後継団体として国内で3団体が活動を続けているとされている。

中でも最大組織とされるアレフには、公安調査庁によると7月末時点で、全国に約1180人の構成員がいる。同庁は団体規制法に基づき、アレフに対し2000年以降、3年ごとに観察処分を更新し、収益事業で得た資産などの報告を義務づけてきた。
しかし、アレフは20年2月以降、報告義務を果たさなくなった。そのため23年3月からは「再発防止処分」が科され、教団の一部施設の使用や寄付の受領などが禁じられている。
次男を“役職員”と認定
そんなアレフの指導体制は表向き、数人の幹部信者による「集団指導体制」とされてきた。

しかし25年7月、公安調査庁が新たな事実を公表した。
「松本元死刑囚の次男が14年ごろから組織運営を主導している」

これは教団内部での大きな転換を示すものだった。
松本元死刑囚の次男は現在31歳。松本元死刑囚は生前、自らの子どもたちを後継者に指名したとされており、その“遺言”通りに、水面下で組織運営がなされていたことになる。

さらに公安調査庁は、次男が同庁への不報告や、被害者への賠償金の未払いを主導しているとも指摘。そうした公表を受けて、公安審査委員会は25年9月、次男が「主導している」とは認めなかったものの、次男を教団の「役職員」であると認定した。
