再生可能エネルギーの切り札とされる「洋上風力発電」が岐路に立っている。洋上風力発電の建設を巡って三菱商事の撤退が国のエネルギー戦略を揺るがす事態となる中、長崎県では2026年に日本初の浮体式ウインドファームが稼働する予定。電力の地産地消や漁業への意外な効果も期待される一方、普及のカギとなるコスト面などの課題も残る。“海に浮かぶ風車”がもたらす未来を探った。
ずっしりとした「浮かぶ」風力発電
人口およそ3万3000人の離島の街、長崎県五島市。
港から船に乗り、まもなく稼働を始めるという洋上風力発電所に向かった。

船に乗ることおよそ20分。まず見えてきたのが、巨大な構造物。高さは100メートルあるという。
港からおよそ5キロの位置にある風車、「はえんかぜ」。方言で「南の風」を意味する。
2016年から先行して商用運転を始めた、「浮かぶ」風力発電施設だ。

ずっしりとした構造物で、根元を見ても、揺れているような様子はほとんどない。
その先に見えてきたのが、8基の風車群。来年1月から稼働予定の、集合型発電所ウインドファームだ。

洋上風力発電には、風車を海底に固定させる「着床式」と、海に浮かべる「浮体式」がある。着床式が主流で、浮体式で商用運転しているのは、国内では「はえんかぜ」と北九州沖の「ひびき」の2基のみ。
この8基が稼働すれば、日本初の浮体式ウインドファームとなる。

戸田建設・五島洋上風力プロジェクト部 野又政宏部長:
一番驚かれるのが、浮いているように見えないというところ。(風車が)動いてしまうとキチンと発電できないので。そこら辺を浮いたモノを制御しながらピタッと止まるのが浮体式の技術。
風車は、棒形の釣りの浮きのような構造で、中が空洞の浮体部分と支柱で成り立っていて、巨大なチェーンでつなぎ止められている。

四方を海に囲まれた日本。
洋上風力発電には、理論上、国内総電力量の倍以上の潜在力があるとの試算もある。

ヨーロッパでは遠浅の海が多く、「着床式」の風車を建てやすい一方、日本は深い海に囲まれているため、「浮体式」に期待が集まっている。
期待膨らむ地元
全長170メートル以上もある巨大な構造物をどのように海に浮かべるのか。
設置の一部始終を記録した映像がある。
まず陸上で、浮体部分と支柱が取り付けられる。横向きのまま、特別に作られた台船に載せていき、水深が深い海域まで運ばれ、台船を沈めると、浮体だけが浮いてくる。

これを船から引っ張り出して、空洞に海水を入れると重心が徐々に下がり、起き上がりこぼしの要領で立ち上がる。
浮体部分に、鉄よりも安価なコンクリートを多く使うことで低コストを実現。量産化もしやすくなったという。
ウインドファームが稼働を始めると、五島市の電力の8割を再エネでまかなえるようになり、地元も歓迎ムードだ。
五島市役所ゼロカーボンシティ推進班 川口祐樹係長:
本店が福岡市にある九州電力に流れていた電気料金の一部が、地元に循環すると。お金がちゃらんころんと五島で回っていく仕組みがちょっとずつできてきたのかな。

地元の電力会社を作り、地元で電力を販売。エネルギーの地産地消になるほか、新たな雇用を生み出しているという。
建設前は、漁業関係者などから漁獲量への影響を懸念する声もあったが、海中部分の支柱がすみかになり、多くの魚が集まるようになっていた。
五島ふくえ漁協組合 井川吉幸理事兼顧問:
あそこができたから(全体で)漁獲が増えたとか減ったとかはない。それをいかに漁獲にしていくか。
課題は、発電効率を上げるために欠かせない風車の大型化への対応だ。
五島の風車は高さ100mだが、現在主流なのは250mクラス。今は350mクラスの開発が進んでいると言われている。
