名古屋の街で、ネコと暮らすホームレスの男性がいる。男性は週に4日空き缶を拾い、自分と飼育している猫の食費を賄っている。
食料の配給や生活保護も拒み続け、ホームレスを続けているこの男性には、「自分の食い扶持くらいは自分で」という強い信念があった。
※ゴミ集積所からの空き缶持ち去りを条例で禁じる自治体もあるが、名古屋市では禁止されていない。
ゴミを集めて作った小屋にはテレビや風呂まで…ネコと暮らすホームレスの男性
この記事の画像(21枚)井東広さん(69)は名古屋の街中で、10年以上路上生活をしているホームレス。一緒に暮らすのは、オス猫の空ちゃんだ。
井東さん:
(ネコは)俺より金額かかる。700円が6袋だから5000円。お猫様だもので、俺よりご飯が先よ
井東さんの食事は、いつも空ちゃんの後。食材は近くのスーパーで買う。1日2食の生活だ。
住んでいる家は、全て井東さんが自らゴミを拾ってきて作った。中をのぞいてみると、そこにはテレビが…。電気は、発電機を使い自らで賄っている。
井東さん:
俺の趣味の部屋で。生きていくために、なんか楽しみにしようと思ってこうやって作っとる
2020年に作った「お風呂」は、カセットコンロ3台を使って沸かす。
かつて建設関係の仕事をしていた井東さん。どうしても風呂を作りたく、3年越しで作り上げた。
深夜に自転車走らせ週4空き缶拾い…1か月に稼いだ4万円で食費を賄う
午後10時前。井東さんの仕事が始まる。深夜の名古屋を自転車で走り、空き缶集めだ。
井東さん:
食うためには仕方ない、まともな人間のやることではないと思ってやっているから。だから、俺はゴミで人間じゃないから、ちょっとでも人間に近づきたい、そう思って頑張っているだけ…
冷え込む街中を7時間ほど走りまわったこの日、手に入れた空き缶は35キロ。これで2800円ほどになるという。週に4日空き缶を拾い、1か月の稼ぎは4万円ほど。これで食費と空ちゃんのエサ代、そしてタバコと酒代を賄っている。
所持していた車は計7台…ホームレスの男性は「月5千万円売上げる」会社の元社長
井東さんには、意外な過去があった。16年ほど前まで建設会社を経営し、社長だった井東さん。バブル景気の頃は羽振りも良かったという。
井東さん:
笑い話だけど、1か月に5000万くらいの売上がある。それで、手元に残るのが700万~800万円。車も7台くらい持っとったし
自分の車、奥さんの車、奥さんが買い物に行くだけ用の車、更にキャンピングカーまで。しかも、全部現金で購入したという。
しかし業績が悪化し、53歳の頃に会社は倒産。その後は別の建設会社に雇われて働いていたが、トラブルがあり働けなくなった。
井東さん:
やり直しがきかんからな、この年になると。それが一番や
「身内に知られるのが嫌だから」…生活保護の受給を阻む理由は“扶養照会”
井東さんのもとには、時々ボランティアの看護師の女性がやってくる。この女性は、週に一度、支援物資を持ってホームレスをまわり、健康状態をチェックしている。井東さんに生活保護について話をするが…
看護師の女性:
(井東さんは)「いやいやいりません、お金だけもらって部屋でぼーっとするのは嫌だ。体が弱ったらお願いするけど、まだ今はその時期ではない」って…
「生活保護は受けたくない…」それには大きなワケがあった…
井東さん:
落ち目になったとき人に見せたくないもん。身内に知られるのが嫌だから…
井東さんが生活保護を受けない理由は「扶養照会」。行政が生活保護を申請した人の親族に、援助をできないか問い合わせるものだ。
井東さん:
会ってもおらん子供のこと考えたり、色々なことを考えるからな
離婚し、当時3歳だった息子とは35年以上会っていない井東さん。生き別れた息子の存在が、生活保護をためらう大きな理由だった。
井東さんは、「扶養照会」を理由に生活保護を受けず、ホームレスを続けている人も少なくないという。「井東」という苗字も偽名で、役所の担当者が訪ねてきても、本名は伝えていない。
「野良猫になっても生きていける社会を」…ホームレスを続ける男性の願い
この日、小屋の隣では食糧の配給が行われていた。しかし井東さんはそこには並ばない。
井東さん:
俺は並ばない。缶拾い行く方がマシだわ。善意は善意だとしても、あんまり気分のいいものではないし
「自分の食い扶持くらい自分で。それが人間の姿だし、少しでもそんな人間に近づきたい…」
と話す井東さんには願いがあった。
井東さん:
一言だけ言わせてほしい。それは絶対映してほしい。こいつ(猫)は俺の子供やねん。こいつが、俺が死んでも生きていけるような世界を作ってほしいし、野良猫になっても安心できるよう世の中を作ってほしい。それを言いたかったから、(取材を)受けた。それだけです。ありがとうございました
野良猫になっても生きていける世の中を。井東さんが願う社会だ。
※ゴミ集積所からの空き缶持ち去りを条例で禁じる自治体もあるが、名古屋市では禁止されていない。
(東海テレビ)