キャプテンが初めて語った思いと苦しみ
宮城県の私立・仙台育英高校サッカー部のいじめ問題で、3年生のキャプテンが初めて取材に応じました。
連帯責任の中で寄り添えなかった後悔。そして、決勝に出場するか、辞退するか、重大な判断が部員たちに“丸投げ”されていた可能性。
学校の説明が不十分なまま、生徒たちがいまも苦しみ続けている実態が見えてきました。
連帯責任の圧力と寄り添えなかった後悔
取材に応じたのは、仙台育英高校サッカー部の3年生のキャプテンです。
約150人の部員たちの思いを伝えたいと、初めてカメラの前で語りました。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「被害を受けた生徒が勇気を出して、(前回)仙台放送の取材に応じて、自分の思いを伝えてくれました。
その姿を受けて私たちもこの問題についての考えや気持ちというのをきちんと伝えるべきだと思いました。
家族をはじめ、これまで関わってくださった多くの方々、仙台育英サッカー部を応援してくださっている方々が心配してくれている中で、私たちの思いを言葉にする必要があると考え、今回の取材を受けました」
キャプテンと生徒は普段、練習で一緒になる機会は少なかったといいます。
それでもキャプテンは、「止められなかった」「寄り添えなかった」という後悔を語ります。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「当時、連帯責任を伴う罰則や、指導者・先輩から厳しい圧力がある中で、同級生として彼にもっと寄り添うことができなかったのではないかという後悔が残っています。何か問題が起きれば連帯責任になるという空気の中で、生徒同士でも厳しい言葉をぶつけ合うような雰囲気があって、その雰囲気自体を少しでも変えられたのではないかと思って、反省しています」
厳しい規律が生んだ「構造的いじめ」とされた問題
学校によりますと、仙台育英高校サッカー部では、生徒が1年生だった2023年春ごろから、主に同じ学年の複数の部員から、「いじり」と呼ばれる不適切な言動を受けていたとされています。
学校は2025年10月になって、「生徒の了承が得られた」とし、「いじめ重大事態」として調査を始めました。
サッカー部を含む全ての保護者に通知されたのは11月1日。
全国高校サッカー選手権・県大会決勝の前日でした。
学校は「出場の辞退を判断するには時間的な制約がある」「被害生徒と保護者の了承を得た」として、決勝に出場。
仙台育英サッカー部は2年ぶりに優勝し、全国大会への切符を手にしました。
そして、優勝から10日後の11月12日、学校は「構造的いじめ」があったとする「最終報告」を公表。
学校は、サッカー部に厳しい規律や重い罰則・連帯責任が定着し、指導者も改善しなかったことで、いじめを生む体質となっていたと説明しています。
学校は全国大会の出場を辞退し、年内の対外活動もすべて停止。監督と、コーチ兼部長は「一身上の都合」で辞任しました。
「規律を乱す人が浮く組織がいい組織だ」教え込まれた“構造”
「構造的いじめ」とは、何だったのでしょうか。
キャプテンの認識と学校の説明との間には、「ズレ」があることが見えてきました。
仙台育英サッカー部3年生 キャプテン
「ピッチ外では、例えば個人の遅刻であったり無断欠席であったり、そういったところで連帯責任になってしまって。
当時は、丸刈り・坊主を強要されたこともありましたし、それ以外にも、走り練習でボールが使用禁止になって、走りになったりしたことがありました」
Qそういうペナルティを課す人は指導者?
「そうですね、指導者、顧問団ですね」
1人でもノルマを達成できなかったり、ルール違反をしたりすると、全員に厳しい走り込みが課されたほか、連帯責任で丸刈りにさせられたり、ボールが使えないなどの厳しい罰則があったといいます。
学校はこうした「構造」と、「顧問団・生徒の不十分な人権意識」がいじめを生んだと結論づけています。
一方で学校は、「生徒が自主的に罰則を科していた側面もあった」と説明していますが、複数の保護者からは、「適切な指導だったのか」と疑問の声が上がっています。
仙台育英サッカー部3年生 キャプテン
「生徒たちは連帯責任による罰則、坊主にすることだったり、走りになることだったり、ボールが使用禁止になることを回避するために、生徒同士で解決する雰囲気があって、その中で特定の生徒が阻害されたり、過剰な注意がありました。
チームの規律を乱す行為にはどんな生徒にも関わらず、各々が注意していく雰囲気がありました。
顧問団からは『注意する人が浮く組織ではなくて、規律を乱す人が浮く組織がいい組織だ』と教え込まれました」
質問状29項目の回答は「控える」
今回、本人はキャプテンであることを明かしたうえで、自分の意思で初めて取材に答える決断をしました。
私たちは保護者同席のもと、事前に話し合いを重ね、プライバシーに最大限配慮したうえで、取材・放送することにしました。
取材に応じた理由について、キャプテンの保護者は、
「学校側の公表内容とのズレに、強い疑問を感じている」
「学校側の説明不足により、被害者だけでなく多くの部員や家族・関係者が苦しんでいる」といった憤りを述べています。
仙台放送では複数の関係者への取材から、当事者たちの認識に複数の食い違いがあることを確認しています。
正確な事実を確認するため、29項目の質問状を出して回答を求めましたが、
学校は「特定の個人に関するため回答を控える」「公式見解はホームページに公表している通り」としています。
「構造的いじめ」は誰が作ったのか
仙台育英サッカー部のこうした「構造」について、いじめ問題に詳しい専門家はどう見ているのでしょうか。
淑徳大学の坂田仰教授(教育行政学・生徒指導学が専門)に、
学校が説明する「構造的いじめ」について、見解を聞きました。
淑徳大学 坂田仰教授
「確かに一面的に見たら、学校側の説明って、すとんと落ちる説明なんですよね。自分たちが努力して勝ちたい、そう思ってる人たちが、ついてこれない子供たちとか、和を乱そうとする子供たちに自主的に指導している。
だけれども、その構造とか文化を作ってるのが指導者の側にあるんじゃないか。その構造的ないじめ、周りが同調圧力をかけるというやり方が、真に自主的に(部員から)出てきたものなのか、サッカー部の指導体制の中で作り上げられたものなのか、ということを考える必要があると思います。
今回、私の印象ですけれども、これは指導体制の中で“刷り込まれた”という言い方はおかしいかもしれません、そこまで言うのはおかしいかもしれませんけれども、(指導体制の中で)作り出された文化・風土、それを学校側は、子供たちの構造的ないじめという形で切り離しているように思えて、少し残念な気がします。
もう少し指導体制に踏み込んだ判断を学校側はすべきではないでしょうか」
高校生に迫られた“重い二択”と“説明なき全国辞退”
仙台育英サッカー部は県大会で優勝したあと、全国大会への出場を辞退しました。
キャプテンの証言によると、決勝に出るか辞退するかという重大な判断が、十分に説明のないまま子供たちに委ねられていたということです。
さらに、いじめの調査が終わっていないうちに、「全国辞退」だけが先に決められた可能性も浮上しています。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「選手権決勝の3日前である10月30日に顧問の先生から突然連絡が入って、練習を休んで聞き取り調査を受けることになりました」
キャプテンと複数の保護者によりますと、複数の部員に聞き取り調査が行われたのは、県大会決勝の3日前、10月30日でした。
ただし、この時の聞き取りは第三者委員会ではなく、生活指導を担当する教師らによる「内部調査」でした。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「調査の内容は加害者を特定するための調査ではなくて、『そのような流れはあったのか、この問題について知っていることがあるのか』など、すごく抽象的な質問のみ。調査の対象になった数十人に同じ質問がされました。
聞き取り調査はこの日のみで、辞退に至るまで、それ以上の調査はありませんでした」
サッカー部の練習は一時停止になりました。
その翌日、部員たちは、学校側から重大な「選択」を迫られたといいます。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「調査の対象になった数十人を除いて決勝戦に挑むか。それとも決勝戦を辞退するかの二択を迫られました。
その時の僕の正直な思いとしては、あの抽象的な質問のみの調査で、この問題に対して何か特定できたのかっていう疑問と、調査の対象になっただけで、3年間夢に描いてきた舞台に立つことができないのかという、とても不安で辛い思いをしました」
部員たちは、何があったのか十分な説明がないまま、判断を「丸投げされた」と感じていました。
混乱の中、決勝前日の夕方、監督が「全責任を持つ」と話し、「全員で出場する」と判断したといいます。
仙台育英サッカー部は2年ぶりに優勝し、全国大会への切符をつかみました。
しかし…。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「決勝戦の2日後に、メディアで仙台育英サッカー部のこの問題に対してのニュースが取り上げられたんですけど、メディアに出てから急に何も説明もなくサッカー部の練習の活動が停止になってしまって、そこから今に至るまで、指導顧問団を除いた学校側から説明されることは、今に至るまでなかったです」
練習停止の理由や、調査の進み具合についても、学校から詳しい説明はなかったといいます。
そんななかでキャプテンは、自ら動きます。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「仙台育英サッカー部のキャプテンとして何かできることはないかって考えた時に、やっぱりまず状況を把握するために、校長先生に話をしに行こうという行動をまず起こしました」
しかし、応対したのは校長ではなく、副校長や別の管理職でした。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「副校長先生からは、
僕が彼(被害生徒)への思いと、選手権への思いを話した後に、辞退を示唆する内容を話されて、
『(生徒・保護者・顧問の)三者面談が終わった後に辞退を公表する』という話を聞きました」
しかし、キャプテンが相談に行ったその日のうちに、学校は全国大会の「出場辞退」を発表しました。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「いきなりサッカー部員全員集められて、副校長先生が辞退を発表する形になりました」
部員全員への詳細な聞き取りや三者面談がまだ終わっていない段階で、「出場辞退」だけが先に決まっていたのではないかと話します。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「本当に僕の行動に意味があったのか、加味されたのか一番の疑問。調査結果は僕らに知らせるべきだと思ってて、本当に何のために行動したのか、何のために調査を受けたのか本当に分からなくなってしまって…。
やっぱり一番、何も説明がないことが、僕の中では腑に落ちない」
「まずはここまで大きな問題になった代のキャプテンとして、すごい反省していて、学校に対しても申し訳ないと思っているんですけど、もう少しこの問題に対して詳しい内容というか、この問題の内容を少しでも開示していただきたいなという思いはあります」
「心配なのは、彼(被害生徒)を含めた僕たちの代が、これから世の中に出ていく時に、このままだと、“あの時のあの事件の育英サッカー部”という十字架を背負い続けることになってしまうので、学校としては本当にこのことを考えて、伝えるべきことは伝えるようにしてほしいなと思います」
言葉を選びながら、ここまで淡々と話していたキャプテン。
「全国への思い」を聞くと…。
仙台育英高校サッカー部3年生 キャプテン
「本当に、選手権始まる前から、チームのみんなで『選手権行って、全国行けば少しでもこのメンバーでサッカーできる時間が長くなるから、絶対勝とうね』っていう話はしていて…。
この1年間、ずっと勝てないし、苦しい状況の中だったけど、それも耐えて、いろんなもの犠牲にしてやっと掴んだ選手権…。
全国の切符を手放してしまうのは、すごく悲しいです」
説明なき学校対応が生む“新たな苦しみ”
いじめを訴えた生徒。いじめに直接関わっていないものの、厳しい連帯責任のもとで日々を過ごしてきた部員たち。そして、その家族や関係者たち。
学校の説明の不十分さが、こうした多くの人たちをさらに苦しめているのではないかという現状が見えてきました。
こうした学校側の対応は、法律やガイドラインの観点から、どう見るべきなのでしょうか。
淑徳大学 坂田仰教授
「学校側の対応、法律やガイドラインにしっかりと説明するようにってことは、いろんなところで強調されてるにもかかわらず、それを当事者の皆さん、生徒さん、保護者の方にしてこなかった不信感っていうのは、いま両方から学校に向かって批判として寄せられている。これは学校側が反省すべき点の大きな一つだというふうに思います。
外部(マスコミ)に向かっての公表は置いておいて、当事者には説明していくということが大きな義務の一つになっている。そこがないがしろにされてることに対しては、怒りを覚えるところがありますね」
取材に対して、学校側は「回答を控える」としています。