人工呼吸器による呼吸管理や、痰の吸引など医療的ケアが日常的に必要な子供たちがいます。そうした子供たちのきょうだいを支え、寄り添う取り組みが県内で始まっています。
松本唯花さん(10)と弟の侑大さん(7)。2人には医療的ケアが必要なきょうだいがいます。この日、一緒に仙台市科学館を訪れたのは、家族…ではなく「かかりつけお兄さん・お姉さん」こと「かなたお兄さん」と「ひのきお姉さん」。仙台の大学生です。
「おはよう!あっ、動いた」
「かかりつけお兄さん・お姉さん」とは、障がいのある子供のきょうだいたちの遊び相手。「かかりつけ」という言葉の通り、毎回同じお兄さん、お姉さんが相手をします。
難病や障がいのあるきょうだいがいる子供の支援を行う一般社団法人が無償で行っているもので、宮城県内に住む大学生9人がボランティアとして登録しています。
一人の子供に対し、一人の大人。若くて体力に自信のあるメンバーが、それぞれの子供たちがしたいことに思いきり付きあうのが最大の特徴です。
団体の代表、小川泰佑さんは、県内の大学の医学部5年生。大学2年の時に同行した訪問診療先できょうだいたちと出会ったことがきっかけでした。
ari 小川泰佑代表理事
「なんで休日なのに遊びに行かないのか、きょうだいに聞いたところ、『遊びにいけない』と返答があったのが、本当に衝撃的で、どんな背景があるのだろうと、すごくもやもやしましたし、それに対して自分が何かできないかという気持ちにかられたのは、今でも強く覚えています」
親がかかりきりでケアを続ける毎日のなか、きょうだいたちが自分の気持ちを抑えて日々を過ごしていることを知った驚きが「かかりつけお兄さんお姉さん」のアイデアにつながりました。
松本理沙さん9歳。唯花さんの妹で、侑大さんにとってはお姉さんです。理沙さんは低酸素脳症を患い人工呼吸器など1日を通し医療的ケアが欠かせません。
かかりつけお兄さん・お姉さんの利用を考えたのは、母・美香さんでした。
母 松本美香さん
「子供たちが外で遊ぶことに付き合ってあげることが難しかったので、“お兄さん”“お姉さん”が子供たち一人一人に合わせて、好きなことを一緒にしてくれると伺ったので、一緒に遊んでもらえたらいいなと思いました」
簡単には外出できないという理沙さん。きょうだいは家の中で静かに遊ぶことが多いそうです。二人に遊びに行きたい場所について聞いてみると。
弟「僕はどこにも行きたくない」
母 美香さん「どうしてどこも行きたくなくなったの?前は行きたかったのに」
弟「どこにも行かないから」
姉「行きたくないというよりは、行かなくていい」
しかし、母・美香さんは、以前はそうではなかったと話します。
母 松本美香さん
「長女は4歳くらいの時に、『私もプリンセスに会いにディズニーランドに行きたい』と一度言ったことがあるけれど、『今は理沙ちゃんの入院も多いし、体調も落ち着いていないし、ちょっと難しい』と言った後からディズニーランドに行きたいということを全く言わなくなってしまって、その後も我慢するのが普通と思って行きたいところすら言わなくなってしまって」
こちらは、障がいのある子供のきょうだいが抱えやすいとされるリスクです。
「親がケアに忙しく孤独感を抱きやすい」
「発作や命の危険を間近で見て、無意識にストレスをためこんでいる」
「『えらい子』『できる子』を期待され、必要以上に使命感を背負っている」
などとされています。
ケアを必要とするきょうだいのために、思いきり甘えたりわがままを言えなくなったりしている子も少なくないと言われます。
福祉イベントでかかりつけお兄さん・お姉さんの存在を知ったという美香さん。遊んでいる時、美香さんは離れて過ごしていますが、帰ってきた子供たちの表情からは充実した様子を感じると言います。
母 松本美香さん
「長女にはお姉さんが付いてくれて、弟には男性の学生が付いてくれて、それぞれ本人がやりたいことを一緒に遊んでくれる。充実した雰囲気があったり、いっぱい体を動かしたことで帰りの車の中で寝てしまったり、思いっきり遊べたというのがすごくうれしく思えます」
子供たちも…。
Q.お姉さんと一緒に遊んでみてどうでした?」
子供たち「とっても楽しかったです。」
かかりつけお姉さん 高橋ひのきさん
「おとなしいように見えて、楽しい時にリアクションするからかわいいなと思って(笑)」
Q.楽しかった?
子供たち「楽しかった」
Q.「また来たい?」
子供たち「また来たい。」
かかりつけお兄さん 進藤奏汰さん
「半年くらい一緒に遊んでいるけれど、次第に距離も近くなって、非常に楽しく遊べています」
今年3月に始まり、現在は8組の家庭が利用しているということですが、代表の小川さんはきょうだいの現状をまずは、社会が知るべきと訴えます。
ari 小川泰佑代表理事
「これは本当に誰も悪くないと思っています。お母さまも、お父様ももちろんケアが必要な子も、一生懸命生きてがんばってやれることを精一杯やっている。その結果、きょうだいにどうしてもしわが寄ってしまうような状況になっていると思うので、家族だけの問題でなく社会全体で考えていく問題だと思う」
その上で、自分たちにできることを考えていきたいと言います。
ari 小川泰佑代表理事
「一人で悩んでほしくない。学校の友だちや保護者以外にも、僕たちが子供たちの安心できる居場所になれるのではないか。きょうだいたちがもっと主役になれるような社会を実現したい」
そして、それは保護者にとっての願いでもあります。
母 松本美香さん
「子供のやりたいこと、希望とか夢とか親として我慢させてしまっているというのがすごく心苦しいし、医療的ケアのあるきょうだいがいても、自分のやりたいことはやっていいし、行きたいことは行きたいと言っていいと、普通に思ってくれるようになったらいいなと思っています」