静岡県伊豆の国市では地域の交通課題を解決する新たな試みとして、住民が自家用車を使って有償で移動に困っている住民を送迎する”共助型ライドシェア”の実証運行が始まる。

交通空白地の人たちの外出手段確保へ

9月に静岡県伊豆の国市で行われたドライバーの養成講習。

参加したのは個人で事業を営む人や主婦など20人。

ただ、ドライバーと言っても、これはタクシードライバーを育てるためのものではない。

共助型ライドシェアの講習会
共助型ライドシェアの講習会
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自家用車を持っている住民が移動に困っている住民を有償で送迎する、いわゆる“共助型ライドシェア”についての講座で、伊豆の国市協働まちづくり課の大澤努 課長によれば「この地域はいわゆる”交通空白地”でタクシーを呼んでも時間がかかる。また、バスの便も限られている。今後、地域の人たちが気兼ねなく外出ができる機会をより多く提供していくための取り組み」という。

講習ではドライバーとしての心構えや緊急時の対応を確認。

運転のアドバイスをする講師
運転のアドバイスをする講師

講師が伝えたポイントは1つ。

”急”が付く運転をしないことだ。

急加速や急ブレーキ、急な曲がり方がこれに当たる。

地域の交通課題を解決するために、なぜいま住民による“共助”が必要とされているだろうか?

路線バスの維持にも限界が

今回、共助型ライドシェアの対象地区に指定されたのが大仁地区の山間部に位置する浮橋区・田原野区・長者原区・下畑区の4つの区。

大仁地区を走る路線バス(伊豆の国市内)
大仁地区を走る路線バス(伊豆の国市内)

伊豆の国市はこれまで年間2000万円を投じてこの地区の路線バスを維持してきたが、運送業界の人手不足や人件費の高騰などもあり現在1日にわずか9便しか運行しておらず、時間帯も朝と夕方に限られていることから学生以外の利用はほとんどない。

地域住民との意見交換会(提供:伊豆の国市)
地域住民との意見交換会(提供:伊豆の国市)

このため、市では新しい地域交通の在り方を構築するため3年前から住民と意見を交わしていて、前出の大澤課長は「行政だけが旗振り役を頑張ってやっても使われないことが多々ある。地域の人たちと合意形成をしながらどういった形態、利用制度を作っていけば地域の人たちが、安全で安心して使うことができるのかということに尽きる」と意義を強調する。

住民同士で「共助」の仕組みつくりを

そこで行き着いた答えが“共助型ライドシェア”だ。

共助型ライドシェア講習の車内
共助型ライドシェア講習の車内

利用者側は乗車を希望する時間を、ドライバー側は自身の都合がつく時間をそれぞれ登録し、マッチングすればドライバーが利用者を自宅まで迎えに行く。

目的地には住民からの要望をもとに駅や市役所、さらには病院や商業施設など9カ所が設定されていて、往復利用も可能だ。

利用料金は1回の運行につき1000円を予定していて、ドライバーには2000円の報酬が支払われる。

住民ドライバー講習の参加者
住民ドライバー講習の参加者

講習に参加したひとりは「毎日仕事の関係で“下”まで行くので、そのついでに送り迎えができる人がいるならば協力できるかなと思った」と口にし、別の参加者も「自分も年を重ねた時のことを考えるとバスがなくなったら不便かなと思い、その時の交通手段を今から考えておかなければと思った」と協力を申し出た理由を明かした。

市は2027年4月からの本格運行に向け検証結果をもとに課題や効果を洗い出す方針で、路線バスを廃止しスクールバスへと切り替えることも検討していて、大澤課長は「山間地域であっても持続可能な地域になっていくために住民自らがその担い手となり行政と一緒になってシステムを作っていくことを目指していきたい」と述べる。

公共交通機関が不足する地域の悩みを解消すると共に地域の絆を深めながらより便利で安全な暮らしを実現する新たな仕組みとなり得るのか、その動向が注目されている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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