ガザの停戦が成立し、人質も解放されたタイミングで、イスラム組織ハマスの暴力の「意図」を示す文書が公にされた。
11日付のニューヨーク・タイムズ紙電子版は、ガザ紛争の端緒なった2年前の10月7日のハマスによるイスラエル襲撃に関するメモと、当日のハマス前線部隊の通信を傍受した記録とするものを伝えた。
「キブツ全体を炎に包め」
同紙記事によれば、押収されたメモは、襲撃を指揮したハマスのヤヒヤ・シンワル指導者(その後死亡)のものとされる手書きの6ページに及ぶ指令書で、2025年に、イスラエル軍が占領した地下トンネルから見つかったという。それには次のような扇動的な指示が含まれている。

「ガソリンまたはタンクローリーのディーゼルを用いて、住宅地区に火を放て」
「キブツ(集団農場)や、それに類するものを丸ごと焼き尽くすことが準備されなければならない」
「兵士の頭を踏みつけろ」
「至近距離から発砲し、ナイフで一部を屠れ」
また通信傍受にはこうある。
「燃やせ、燃やせ。キブツ全体を炎に包め」
「何でも燃やせ」
「喉を切れ、訓練どおりにやれ」
「道で出会う者は皆殺せ」
「とにかく多くの人質を取れ」
「恐怖の場面を撮影し、テレビで世界中に放送しろ」
さらに通信はこうとも指示している。
「彼らを虐殺しろ。イスラエルの子どもたちを終わらせろ(End the children of Israel)」
(いずれもニューヨーク・タイムズ紙を引用)

これらの指示が現場で実行された結果、犠牲は甚大だった。当日のイスラエル側の一般市民の死者は695人に上り、そのうち子ども36人が殺害されたとされている(France24 等による)。
ハマスは当初、この報道を「フェイクニュース」だと否定したが、ニューヨーク・タイムズ紙はメモの筆跡鑑定の結果、シンワル指導者のものと断定した。
ガザ停戦のタイミングでの“暴露”…狙いは
メモの筆跡が指導者のものということは、襲撃は偶発的な暴力行為ではなく、一定の戦術的・宣伝的目的を持った暴力作戦であった可能性が高まる。その場合、これが国際司法や国連調査にとって大きな意味を持つことになる。戦争犯罪や人道に対する罪を論じる際、意図(intent)の証明は、その核心的要素だからだ。

では、なぜ「いま」この文書がマスコミに漏えいされ、公表されたのか。停戦と人質解放という情勢の転換点というタイミングは偶然ではないだろう。
国内向けには反ハマスの機運を再燃させ、ネタニヤフ政権への批判を鎮める効果が期待できる。また、対外的には「ハマスの計画的残虐性」を示すことでその正当性を削ぎ、今後ハマスの武装解除や、ガザにハマスを排除した統治機構の設置をめぐる国際協議、さらにはパレスチナ国家承認問題で国際社会の支持を得ることを狙ったのかもしれない。

その一方で、このような先制的な公開はハマスの反発を招き、今後の交渉を硬直化させるという副作用を伴う可能性もある。
いずれにせよ、今回の情報の漏えいは単なる過去の暴露にとどまらないだろう。今後のガザ問題ひいては中東和平にどう影響を及ぼすか見極めたい。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)