高市新首相はトランプ米大統領との相性が合うかもしれない。
高市氏が自民党総裁に選出された直後、トランプ大統領は自身のSNSに「日本はついに初の女性首相を選出しました。彼女は大いに尊敬され、知恵と強さにあふれる人物です。これは素晴らしい日本国民にとって大変な朗報です」と投稿した。さらにホワイトハウスの記者会見でも、レビット報道官に同趣旨のメッセージを発表させた。

トランプ大統領が外国の新指導者誕生に祝意を示すこと自体は珍しくない。ただ今回のケースは、自民党総裁に選ばれた段階で「日本初の女性首相誕生」を前提とした発言だった。表現も形式的というより、むしろ個人的で温かみのあるのが注目を集めた。
超保守系ニュースサイトは「日本版サッチャー」と評す
欧米メディアの多くは、高市氏の政治姿勢に慎重である。外交専門誌「ザ・ディプロマット」は、7日付電子版で「高市氏の台頭は、右派・極右の政治家が勢力を拡大しつつある世界的潮流の一環だ。反グローバリズム、移民問題、長引く経済停滞がその背景にある」と論じ、歓迎ムードは見られなかった。
そうした中で、米国の超保守系ニュースサイト「ブライトバート」は6日、高市氏を大きく取り上げた。記事は「日本初の女性首相誕生へ」と題し、彼女を「日本版サッチャー」あるいは「安倍晋三の後継者」と呼んで持ち上げた。さらにガソリン税減税や地方支援策を「国民第一のポピュリズム」と評価。日経平均株価の上昇を紹介し、「市場も喝采を送った」と報じている。

この報道が意味を持つのは、同サイトがトランプ大統領の「愛読メディア」とされる点にある。ブライトバートは2016年の大統領選で陣営の旗振り役を務め、政権発足後も強力な支持を続けた媒体だ。トランプ氏が日常的に目を通している可能性は高い。その紙面で高市氏が「鉄の女」「日本のトランプ」と評されているなら、本人の印象に少なからず影響を与えているだろう。
初会談は“良好なケミストリー”期待も…
政策面でも両者には共通点が多い。
第一に「国民第一主義」。高市氏が移民問題で「国民の不安を侮辱しない」と明言した姿勢は、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」と響き合う。第二に「反グローバリズム」。多国間協調よりも自国の伝統や主権を重視する姿勢は、孤立感を抱く有権者の支持を集める。そして第三に「象徴的リーダー像」。サッチャーを意識した装いの高市氏と、ショーマンシップを前面に出すトランプ氏。スタイルは異なるが、ともに「強い指導者」を演出している。

トランプ大統領は今月末にも来日する予定だ。初会談に限って言えば、良好なケミストリーが生まれる可能性は高い。トランプ氏は「日本初の女性首相」という歴史的瞬間を歓迎し、ブライトバートの論調をなぞるように「素晴らしいリーダーだ」と称賛するはずだ。
高市氏もまた、かつて米議会にフェローとして滞在した経験を活かし、共和党文化の感覚を理解している。トランプ氏にとって「自分を理解する日本の首相」という印象は心地よいだろう。

ただ、課題はその先にある。市場や世論に敏感なトランプ氏に対し、日本国内はインフレや移民政策で微妙な均衡を求める。高市氏が国内世論に歩調を合わせれば、ワシントンの要求とずれが生じかねない。蜜月は華やかなセレモニーで始まっても、実務の局面では摩擦を生む可能性が残る。
首脳同士の相性が外交を左右するのは歴史が示す通りだ。トランプ大統領と高市首相の関係が「レーガン=サッチャー型」となるのか、「小泉=ブッシュ型」となるのか。あるいは短命に終わるのか。ブライトバートの賞賛記事を胸に、トランプ氏がどのような期待を抱いて東京に降り立つのか。両者のケミストリーは、これからの日米関係を占う重要な試金石となる。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)