上皇后・美智子さまは10月20日、91歳の誕生日を迎えられる。皇太子妃時代から毎年誕生日に、近況などについて記者の質問に文書で回答を寄せられるのが慣例になっていた美智子さま。今回は翌年4月に天皇陛下(現・上皇さま)の退位を控え、皇后として迎える最後の誕生日に寄せられた美智子さまの文書回答をまとめた平成30(2018)年10月28日放送「皇室ご一家」(第1974回 皇后さま 84歳の誕生日)を振り返る。
なお、本記事は当時のナレーションをそのまま記載。上皇后さまを「皇后さま」、上皇さまを「天皇陛下」などと記載する。
皇后さま 84歳の誕生日
皇后さまは10月20日、84歳の誕生日を迎られました。

天皇陛下のご退位も迫り、皇后としての最後の誕生日。記者の質問に文書で回答を寄せられた皇后さまは、まず多くの犠牲者を出した豪雨や地震などの自然災害について触れられました。

《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
日本の各地で、災害により犠牲になられた方々を心より悼み、残された方々のお悲しみを少しでも分け持てればと思っています。また被災した地域に、少しでも早く平穏な日常の戻るよう、そして寒さに向かうこれからの季節を、どうか被災された方々が健康を損なうことなく過ごされるよう祈っています。
両陛下は9月、西日本豪雨の被災地、岡山・愛媛・広島の3県を2週連続で訪ねるなど、被災した人々を見舞われました。

《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
そのような中、時々に訪れる被災地では、被災者の静かに物事に耐える姿、そして恐らくは一人一人が大きな心の試練を経験しているだろう中で、健気に生きている子ども達の姿にいつも胸を打たれています。

《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
また、被害が激しく、あれ程までに困難の大きい中で、一人でも多くの人命を救おうと、日夜全力を挙げて救援に当たられる全ての人々に対し、深い敬意と感謝の念を抱いています。
陛下 退位まで半年のご心境について
即位以降、47都道府県を2巡された両陛下。全国各地を訪れるたびに地図にピンで記されてきました。

皇后さまは、陛下の退位まで半年余りとなったご心境について記されました。
《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
陛下は御譲位と共に、これまでなさって来た全ての公務から御身を引かれますが、以後もきっと、それまでと変わらず、国と人々のために祈り続けていらっしゃるのではないでしょうか。

《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
私も陛下のおそばで、これまで通り国と人々の上によき事を祈りつつ、これから皇太子と皇太子妃が築いてゆく新しい御代の安泰を祈り続けていきたいと思います。
皇室入りから60年の思い出
さらに皇后さまは、皇室に入ってからのおよそ60年の歩みを振り返られました。

《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
24歳の時、想像すら出来なかったこの道に招かれ、大きな不安の中で、ただ陛下の御自身のお立場に対するゆるぎない御覚悟に深く心を打たれ、おそばに上がりました。そして振り返りますとあの御成婚の日以来今日まで、どのような時にもお立場としての義務は最優先であり、私事はそれに次ぐもの、というその時に伺ったお言葉のままに、陛下はこの60年に近い年月を過ごしていらっしゃいました。

《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
皇太子妃、皇后という立場を生きることは、私にとり決して易しいことではありませんでした。与えられた義務を果たしつつ、その都度新たに気付かされたことを心にとどめていく―そうした日々を重ねて、60年という歳月が流れたように思います。

《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
その間、昭和天皇と香淳皇后の御姿からは計り知れぬお教えを賜り、陛下には時に厳しく、しかし限りなく優しく寛容にお導き頂きました。

《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
3人の子ども達は、誰も本当に可愛く、育児は眠さとの戦いでしたが、大きな喜びでした。これまで私の成長を助けて下さった全ての方々に深く感謝しております。
陛下の退位後について
また来年の退位後については…

《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
陛下の御譲位後は、陛下の御健康をお見守りしつつ、御一緒に穏やかな日々を過ごしていかれればと願っています。そうした中で、これまでと同じく日本や世界の出来事に目を向け、心を寄せ続けていければと思っています。例えば、陛下や私の若い日と重なって始まる拉致被害者の問題などは、平成の時代の終焉と共に急に私どもの脳裏から離れてしまうというものではありません。これからも家族の方たちの気持ちに陰ながら寄り添っていきたいと思います。

皇后さまは、これからの過ごし方について…。
《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
皇太子、天皇としての長いお務めを全うされ、やがて85歳におなりの陛下が、これまでのお疲れをいやされるためにも、これからの日々を赤坂の恵まれた自然の中でお過ごしになれることに、心の安らぎを覚えています。

そして…
《皇后さま 宮内記者会の質問に対する文書ご回答》
陛下が関心をお持ちの狸の好きなイヌビワの木なども御一緒に植えながら、残された日々を、静かに心豊かに過ごしていけるよう願っています。
…と結ばれました。これからも、陛下に寄り添い歩まれる皇后さまです。
両陛下 世界文化賞30周年記念レセプションへ
天皇・皇后両陛下は、10月23日、東京・港区で開かれた「高松宮殿下記念世界文化賞」の30周年記念レセプションに出席されました。

芸術・文化の分野で優れた功績を上げた芸術家に贈られる世界文化賞。レセプションには、今年の受賞者の他、歴代の受賞者たちが集まりました。

今年、演劇・映像部門を受賞したフランスの女優、カトリーヌ・ドヌーブさんは、是枝裕和監督の次回作で主演を務めていて、両陛下は「日本に何回来られているんですか」「是枝監督とは仕事がしやすいですか」などと尋ねられたということです。

常陸宮ご夫妻は、この日の夕方、東京・港区で行われた「第30回高松宮殿下記念 世界文化賞」の授賞式に出席されました。

常陸宮さまは、この賞を主催する日本美術協会の総裁を務められています。

彫刻部門を受賞したのは人工的に霧を発生させて作品を作り上げる「霧の彫刻家」中谷芙二子(なかや・ふじこ)さん。

建築部門はフランスを代表する建築家のクリスチャン・ド・ポルザンパルクさん。

音楽部門は世界のクラシック音楽界をリードするイタリアの指揮者、リッカルド・ムーティさん。

演劇・映像部門は「シェルブールの雨傘」をはじめ100本以上の映画に出演したフランスの女優、カトリーヌ・ドヌーブさんが受賞しました。

また、絵画部門の受賞者、ベルギーのピエール・アレシンスキーさんは、健康上の理由で欠席。代理の人がメダルを受け取りました。

受賞した芸術家たちの栄誉を称えられた常陸宮ご夫妻です。
(「皇室ご一家」第1974回 平成30年10月28日放送)