「枕を使わずに寝かせていたら後頭部が絶壁、ぺっちゃんこになってしまった」
高知市に住む2歳の女の子は、生後4カ月の時、医師から「重度の短頭症」と診断された。短頭症は、後頭部が平らになる状態で「絶壁」と呼ばれる。重度の場合、運動能力や発達に影響が出る可能性を指摘する医師もいる。
母親は悩んだ末、娘の頭の形を矯正する「ヘルメット治療」を決断。 しかし、専門の病院は高知にない。車で片道5時間かけて大阪の病院へ、月1回7カ月間通った。ヘルメット治療は、保険の適用外で数十万円の費用がかかり、精神的な負担も大きかった。
母親は「ヘルメットはお風呂以外の時間は一日中つけっぱなしで、娘の頭がかぶれたりして大変でした。私たちも朝の3時半に起きて大阪へ向かい、日帰りで帰ってくる。精神的にも体力的にも限界でした」と話す。
「枕なし」が短頭症の原因に?
どうして娘は短頭症になったのか?担当医の説明に母親は混乱した。
担当医
「生後1カ月半から8カ月までの乳児の頭が柔らかい時期に、枕をしなかったことが原因の一つ」
しかし、母親は出産後、助産師から「ベッド上の物は枕を含め撤去すべき」と何度も指導を受けていた。「そうしないと窒息するリスクがある」とも言われ、娘の命を守るため忠実に守った。
母親は「混乱しました。医者の言う通り柔らかい所に寝かせていたら良かったと思うし、言うことが全然違う」と話す。
赤ちゃんの枕、使うべき?専門医の見解が真っ二つ
赤ちゃんの枕は使うべきか?検証するにあたり、注意しなければならないのが、赤ちゃんが睡眠中に亡くなる「乳幼児突然死症候群(SIDS)」だ。
原因不明の病気で12月以降に発症しやすく、乳幼児の死亡原因の第3位となっている。こども家庭庁は、あおむけ寝だと発症率が下がるとし、「1歳まではあおむけに寝かせる」よう呼びかけている。しかし、ここにあるジレンマが生じる。
複数の専門医は、あおむけ寝が推奨された結果、突然死は減ったものの、短頭症など頭の形が変形する赤ちゃんが増えたと言う。
いわた脳神経外科クリニック・岩田亮一院長
「赤ちゃんの頭の骨はまだ完成しておらず、非常に柔らかい状態です。その時期にずっと後頭部を下にして寝ていれば、誰でも頭はへこんでしまいます。あおむけ寝は、赤ちゃんの突然死を防ぐためには仕方がない」
つまり、命を守るための「あおむけ寝」が、後頭部が平らになる「短頭症(絶壁)」のリスクを高めてしまうのだ。それでも、こども家庭庁は、窒息のリスクを防ぐ上でも「赤ちゃんの寝床には、枕を含め何も置かない」としている。
一方、ベビー用品店では「生後3カ月までの赤ちゃん」を対象とした枕が販売されている。真ん中にくぼみがあり、「医師が薦めるドーナツ枕」「頭の形を整えることにも役立つ形状」と医師の推薦の言葉を添えている。
つまり、特定の医師とメーカーは、枕の使用を推進する一方、こども家庭庁は、枕を使わないよう呼びかける「ねじれ現象」が起きているのだ。
赤ちゃんの枕使用めぐり、専門医の意見も分かれる。
赤ちゃんの枕使用について、赤ちゃんの頭のゆがみを治療する専門医の意見も分かれた。
いわた脳神経外科クリニック・岩田亮一院長
「枕は基本的になし。短頭症で脳の発達や機能が悪くなることは基本的にない。まずは生命を守ることを最優先すべき。枕で短頭症を防げるというエビデンスもなく、基本的に枕なしで良い」
赤羽小児科クリニック・金尚英副院長
「枕は使っていい。枕がなく硬いマットレスのままだと、短頭症の一因になる。寝返りをうつ前であれば、適切な枕やマットレスを使ってなるべく硬いところに寝かせることは避けるべき」
赤ちゃんの命と頭の形をどう守ればいいのか?
枕をめぐり様々な考えがある中、赤ちゃんの命と頭の形を守るためにはどうすればいいのか?高知県小児科医会の吉川清志医師は、家庭でできる2つの対策をすすめる。
. タミータイム…赤ちゃんを両親のお腹の上にうつぶせにのせて遊ばせる。体幹トレーニングや愛着形成にもつながる。
・赤ちゃんの左右からあやす・・・赤ちゃんをあやす時、左から声をかけたり、右から声をかけたりして、顔の向きを変える。
吉川医師は「これらの対策で、頭の一部に圧がかかり続けることを避けられ、軽度の頭のゆがみであれば自然に改善する」と話す。
短頭症は、基本的に脳への影響はないとされる。一方で、複数の専門医は「近年、赤ちゃんの頭の形に関する相談が多くなり、ヘルメット治療を受ける赤ちゃんは増えている」と言う。
こうした現状を受け、高知市の母子保健課は今後「妊婦にタミータイムなどの対策を積極的に周知していく必要性がある」と話す。赤ちゃんの命と頭の形を守るため、国や自治体、医療機関が、緊密に情報交換し、より分かりやすく子育て世代に発信することが求められる。
取材:玉井新平・中川果歩(高知さんさんテレビ)