天皇皇后両陛下は、9月28日から2日間の日程で「第79回国民スポーツ大会」の総合開会式に出席するため滋賀県を訪問される。滋賀は32年前、お二人がご結婚されて2カ月後に2回目の地方公務として訪れた地で、両陛下ともに宿泊先から見た琵琶湖の景色を短歌にしたため、翌年の歌会始、お題「波」で発表された思い出の場所。今回はその旅の様子を取材した平成5(1993)年9月11日放送「皇室ご一家」(第736回 皇太子ご夫妻 近江路の旅)を振り返る。
なお、本記事は当時のナレーションをそのまま記載。天皇皇后両陛下を「皇太子ご夫妻」などと記載する。
弘文天皇長等山前陵を参拝し 歴史館や科学館をご覧
皇太子ご夫妻は「第5回全国農業青年交換大会」ご出席のため、8月23日から3日間の日程で滋賀県をお訪ねになりました。

ご夫妻はまず、大津市の弘文天皇長等山前陵(こうぶんてんのうながらのやまさきのみささぎ)をご参拝になりました。

弘文天皇は、天智天皇の第一皇子として生まれ、ここ大津で第39代天皇として即位しました。しかし壬申の乱により在位8カ月で崩御、25歳の若さでした。

続いて、ご夫妻は大津市歴史博物館へ。

この博物館では、琵琶湖と共に歩んできた大津市の歴史や文化を6つのコーナーに分け、わかりやすく展示しています。

水上交通をご研究中の皇太子さまは、縄文時代の丸木船に強い関心を示され、さかんに質問されていらっしゃいました。

この後ご夫妻は、草津市の県立水環境科学館をお訪ねになりました。

館内に入られた皇太子さまは、3年前に大阪での花と緑の博覧会に展示された「花の塔」をなつかしそうにご覧になっていました。

続いて「水と環境ゾーン」「下水道ゾーン」など様々な趣向をこらした展示をご覧になったご夫妻は、改めて水の重要性について認識されたご様子でした。
第5回全国農業青年交換大会」にご出席
翌8月24日、米原町(まいはらちょう、現・米原市)の県立文化産業会館で「第5回全国農業青年交換大会」の開会式が行われました。

この大会は、これからの日本の農業を担う全国の農業青年が一堂に集い、知識や技術を交換し、交流を深めようというものです。

式典には、海外からの研修生も含め、およそ1800人が参加しました。

《皇太子さま おことば》
今日、国際的にも自然環境の保全のために大きな努力が払われていますが、人々が望ましい環境の中で、心豊かな生活を享受することは、大切なことであります。環境と調和した農業を目指して皆さんが広い視野に立って、若々しい意欲と行動力を持って進んで行かれることを期待しております。
我が国の農業を取り巻く内外の環境には、厳しいものがあると思います。この度の大会を契機に、皆さんが我が国の農業の役割と未来に思いを深められるとともに、様々な困難を克服し、自信と誇りを持って、活力に満ちたの農村社会の建設と地域農業の発展のため、力を合わせて行かれるよう、心から願っております。それと共に、参加された皆さんがお互いの親睦を深め、情報を交換し、有意義なひとときを持たれることを希望し、挨拶と致します。

開会式に続いて、会場では「水と農薬」についてのパネルディスカッションが行われ、ご夫妻は白熱した討論を熱心に聞いていらっしゃいました。
特別養護老人ホーム「坂田青成苑」へ
この後ご夫妻は、山東町(さんとうちょう、現・米原市)の特別養護老人ホーム「坂田青成苑」をお訪ねになり、お年寄りたちを励まされました。

ここでは、常に介護を必要とするお年寄りたちが、日常の生活が1人でも出来るようにと様々な訓練を受けています。

苑内を巡られたご夫妻は、「ふれあいの場」でお年寄りたちが輪投げに興じる様子をご覧になり、一人一人にやさしく声をかけていらっしゃいました。
全国農業青年交換大会「歓迎の夕べ」にご出席
この夜、長浜市内のホテルで開かれた「農業青年交換大会の歓迎の夕べ」に出席されたご夫妻。

意欲的に農業に取り組む青年たちと親しく話しをされました。
滋賀県立長浜農業高等学校をご訪問
滋賀県ご滞在3日目の8月25日、ご夫妻は、県立長浜農業高校を訪問されました。

この学校は地域の農業とそれに関連する産業の発展と、そして技術者の養成を目的として創設されました。
ご夫妻は、食品化学実験室で加工品の成分や安全性の科学分析などの実験をご覧になり、真剣にとりくむ女子生徒に「がんばって下さいね」と励ましていらっしゃいました。

3日間の滋賀県ご訪問を通じて、多くの県民や農業青年たちとの触れ合いをもたれた皇太子ご夫妻。さわやかな印象を残され、近江路を後にされました。
(「皇室ご一家」第736回 平成5年9月11日放送)