広島城の別名「鯉城(りじょう)」にちなみ、お堀にニシキゴイを放流する取り組みが続いている。手がけるのは広島市西区の養鯉場だ。赤いヘルメットを被ったような模様のコイを“赤ヘル鯉”と名付けるなど、広島のシンボルとして育ててきた。
広島城のお堀に泳ぐ「赤ヘル鯉」
9月6日の朝。広島城のお堀に145匹のニシキゴイが次々と放たれた。
体長90センチ、重さ15キロを超える大きなコイもいて、約8年かけて丹念に育てられたという。

放流を見届けたのは、小西養鯉場の社長・小西丈治さん。
「このコイは赤ヘルを被ったような模様なので“赤ヘル鯉”と名付けました。今年のカープは残念でしたが、来年こそ頑張ってもらいたいですね」と笑う。

広島城周辺の地名がかつて「己斐浦」だったことから、「鯉の城」すなわち「鯉城」と呼ばれるようになったとされる。
コイは英語でカープ(carp)。プロ野球チーム「広島東洋カープ」の由来にもなった言葉だ。
無償提供から始まった夢
2018年当時、広島城のお堀にコイの姿はほとんどなかった。

「鯉城という名前なのにお堀にコイがいないのは寂しすぎる」と感じた小西さんは、自ら育てたニシキゴイを無償で提供し始めた。

それから7年。今では1000匹以上のコイが優雅に泳いでいる。
「広島城は広島市の原点。コイは争いごとをしない魚です。平和を大切にする街・広島にぴったりだと思う。鯉城のお堀にコイが泳ぐのは僕の夢でした」
外国人観光客たちも、お堀を彩る鮮やかなニシキゴイに足を止め、しばし見入っていた。
世界を魅了する日本のニシキゴイ
ニシキゴイは今や海外で高い人気を誇る。小西養鯉場の取引も、実に9割が海外向けだ。
なぜ海外でここまで人気なのか。
放流の現場に立ち会っていたドイツのバイヤーは、こう語った。
「ヨーロッパにも野生のコイはいますが、日本のニシキゴイは模様が美しく、サイズも理想的。広い庭を持つ家庭が多いため飼いやすいのです」
食文化やアニメと同じように、ニシキゴイも日本文化の象徴として親しまれている。国内では住宅事情から飼育が難しいが、その美しさは国境を越えて広がり始めた。

「広島のシンボルとしてニシキゴイを皆さんに愛していただきたい」
小西さんの思いは、広島城のお堀を見つめる人々の心に確かに届いているようだ。
(テレビ新広島)