富山市の幹線道路を車で走っていると、ここ数年で目立つようになった大きな顔写真入りの看板。クリニックの院長や企業の社長の顔が道行く人々に微笑みかける光景が増えている。なぜ最近このような顔写真付きの屋外広告看板が増えているのか、その狙いを調査した。

この記事の画像(13枚)

街に溢れる"顔"の看板

富山市内の幹線道路では、有名タレントだけでなく、クリニックの院長の写真も目立つようになっている。

番組が独自調査したところ、富山市内で最も多く見られたのは、あるオレンジ色の看板だ。その数なんと20枚以上。この看板の主である富山石金歯科を訪ねた。

「正直顔写真を出すのは抵抗があって覚悟もいったかな」と語るのは直江慎也院長。3年前の開業当初から顔写真看板を導入している。「一番は患者さんの安心感が得られたら。野菜でも生産者の顔写真付きって結構あるじゃないですか。地域貢献という意味で開業したので、みんなに知ってもらいたい」と看板設置の理由を説明した。

文字だけでは目に入らない

一方、県総合運動公園近くに大きな看板を構えるドアマードの伊藤氏は別の視点を示す。

「最初は字だけの看板だったんですが、自分で出しておいて目にも入らなかったんです。ということは、お客様にも入らないと思って」と顔写真を取り入れた理由を語った。

効果については「友達から電話あったり、近くでごはんを食べていると、看板の人?って声掛けられたり、小学生に看板のおっちゃんだって」と実感しているという。

"ザイアンス効果"という心理学

顔写真看板には「ザイアンス効果」という心理学的効果が期待できるという。社会心理学の用語で、「特定の人物や物に何度も繰り返し接触することで無意識のうちに、好感度や評価が高まる」現象だ。「単純接触効果」とも呼ばれる。

屋外広告分野で全国トップシェアを誇る長田広告の富山営業所の中川裕一所長によると、「富山県でも確実にここ10年でクリニックの先生や社長の看板が増えています」とのこと。「やはり親近感がわく」というのが大きな理由だ。

「ロードサインは365日24時間その場所にある。日々の生活の中で毎日繰り返し目にする媒体になりますので、風景の一部になっています」と専門家は説明する。

変わる広告の役割

県や市の条例により、景観や安全上の理由でどこでも顔写真付きの看板が設置できるわけではないが、他との差別化という意味で、希望する企業やクリニックは増加傾向にある。なお記事で紹介した看板はいずれも自治体の許可を得て広告会社が設置している。

屋外看板はこれまで店舗の場所を知らせる案内看板としての役割が強かった。しかし現在は、企業のイメージを高めるためのブランディングの一環としての意味合いが強まっている。

街の人々も「顔があったら見てしまう。印象に残る」「毎日通る道だったら頭に残ると思う」と話しており、顔写真看板の効果を裏付けている。

道行く人の視線を集め、無意識のうちに親近感を醸成する顔写真看板。富山の街並みに溶け込みながら、新たな広告戦略として定着しつつある。

富山テレビ
富山テレビ

富山の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。