突然、ツキノワグマに飛びかかられ、体を押さえつけられ、血まみれの取っ組み合いを余儀なくされたのだ。
およそ20分に及ぶ死闘のなかで越中谷さんは、幾度となく拳を見舞い、眼球を狙うなどの攻撃で反撃。最後には肘でクマの喉元を圧迫し、何とか撃退に成功。

まさに命を懸けた戦いだったという。「耳元に聞こえるクマの息遣いが今も忘れられない」と振り返る越中谷さんは同時に、こうも語る。
「山に入って行って『クマが出た』と騒ぐのは、筋が違うとも思います。山中にはクマのテリトリーがあることを忘れてはいけない」
クマを避けるためにできること
岩泉町や秋田市での事例のように、クマと渡り合うなどというのは誰にでもできることではない。だからこそ大切なのは、最初から「クマと鉢合わせない」工夫をすることである。

まずは、入山地域のクマの出没情報をあらかじめチェックすること。そしてクマの行動圏に入る際には、クマ避け鈴を鳴らしたり、声を出すなどして先に人間の存在を知らせることが欠かせない。クマは本来臆病で慎重な生き物であり、基本的に人間に会いたいとは思っていないからだ。
ただし秋田市の越中谷さんは山に入る際に爆竹を鳴らしていたが、沢で音が反響し、逆にクマを呼び寄せてしまったのではないかと後に推測している。

さらに注意したいのは、クマの痕跡を見逃さないことである。フンや爪痕、足跡、食痕、折れた木…これらは、クマの生活圏であることのサインだ。見つけたら興味本位で近づかず、ただちに引き返すのが鉄則である。