国費で負担される公設秘書の給与をだましとったとして、元参議院議員の石井章氏が30日、東京地検特捜部に在宅起訴された。茨城県取手市に豪邸を構え、前回の参院選では、長女をも当選させた実力者が、なぜ――。関係者の証言から、その人物像に迫る。
詐欺罪で在宅起訴…石井章元参院議員
茨城県取手市。JR常磐線藤代駅から徒歩10分、田んぼが広がる一角に、石井元議員の自宅は建つ。応接室には、たたみ一畳分くらいの木彫りの虎の置物が置かれ、駐車場は、数十人でBBQをするほどの広さがあるという。

8月下旬、東京地検特捜部の係官らが、この豪邸に家宅捜索に入った。
起訴内容は、2021年4月から1年半の間に、勤務実態のない人物の名前を公設秘書として届け出て、その分の給与828万円を国からだまし取ったというもの。石井元議員が理事長を務める社会福祉法人で働く親族の名前で届け出ており、給与が振り込まれた口座は事務所の限られたメンバーで管理されていたとみられている。
「AKIRA号」で駆け回る“親分議員”
石井元議員とは、どのような人物だったのか。

旧藤代町議、取手市議を経て、2009年に民主党から衆院選比例北関東ブロックに出馬し、初当選。2016年の参院選で「おおさか維新の会」から、2022年の参院選で日本維新の会から立候補して当選した。

大阪出身の議員が多い維新の中で、大阪以外の議員の「親分」的な地位を築いてきた。今年2月に開いた「茨城維新塾」には、前原誠司氏のほか30人以上の地方議員らが集まった。事務所駐車場には、いまも「AKIRA号」と書かれた計7台の選挙カーが置かれている。選挙になれば、維新公認の候補の応援のために、各地を駆け回ったのだという。

馬場伸幸前代表と親しく、党の両院議員総会長に就いた。維新関係者は「誰とでも仲良くするおっちゃんだった。うまくやればそれなりに活躍できる人だと思っていただけに、もったいないことをしたと思う」と話す。
「誰の言うことも聞かなくなった」数年前から漂う不穏な空気
一方で、議員活動をよく知っている人たちは事件について、「やっぱりか」と口を揃えた。
ある維新関係者は、大阪都構想の住民投票の時にあった、石井元議員とのやりとりを次のように振り返る。

「維新にとって重要な住民投票で、石井さんは茨城からバスをもってきて支援してくれたんです。『好きに使ってくれ』と言っていたけど、結局お金を取られた」
好きに使ってくれと言っていたバスは自分の選挙カーであったにもかかわらず使用料を迫ってきたという。
一時は、金に困っている時期もあったというが、複数の社会福祉法人を設立して理事長になってからは、金回りが良くなっていった。
党の役職に就き、順風満帆に見えた石井元議員。事務所には、「誰が秘書でだれが秘書じゃないかわからない」というほど、人の出入りがあり、にぎわっていた。
ただ、数年前から、事務所内では不穏な空気が漂うようになった。

「ここ2~3年、章は誰の言うことも聞かなくなった。だから周りの人が離れていったんです」
家族のように関係の強かった事務所の中で、亀裂が入り始めた。その最後のとどめとなったのが、2025年、長女である石井めぐみ氏の参院選への立候補だった。
めぐみ氏は比例代表で初当選。ただ、「なんで娘のためにやらなきゃいけないのかっていって、事務所内で反対派と賛成派ができた。白黒割れたのは、これがきっかけでした」
長女めぐみ氏の初当選の一方で、崩れていった石井元議員自身の議員人生。
本人は、周囲の人に対し、「秘書給与詐欺」について否定する話をしているという。

事件が発覚してから、石井元議員は、メディアの前に公式に姿を現すことはしていない。地元の有権者は言い捨てる。「なにをやっているんだって話だよ。政治不信になるよね」
【取材・執筆:フジテレビ社会部司法クラブ 林ひなの、小溝茜里、野﨑智也】