群馬・前橋市長のスキャンダルが波紋を広げている。首長という「公人」の行動が、一瞬で組織と住民の信頼を揺るがすことを改めて示した。

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実はかつて、宮城の小さな村でも、同じくトップのモラルをめぐる“異様な裁判”が全国の耳目を集めた。法廷で明らかになったのは「村長室で性行為を迫られた」「殿と呼べ」といった耳を疑う言葉の数々だった。
過去の取材記録を改めて振り返り、裁判が突きつける教訓を紐解きたい。

村長室でも迫られた「性行為」

訴えを起こしたのは、村役場に勤めていた女性職員。

2014年春、公務出張に同行したホテルの一室で、当時の首長から「性行為を強要された」と主張した。その後も村長室や出張先のホテル、入院先の病室などで繰り返し迫られたという。

拒否すれば「仕事に不利益が及ぶ」と脅され、逆らえない状況に置かれていた。女性は「自分さえ我慢すれば業務は回る」と思い込み、沈黙を続けた。

半年で1300通のメール 「殿と呼べ」と命令

さらに明らかになったのは、異常な数のメールだ。

2014年4月から9月までのわずか半年間で約1300通。単純計算で 1日あたり10通以上。

一般的なビジネスパーソンが受け取るメール数の2倍近い頻度にあたる。

その内容は公務とは無関係なものばかりだった。

・「休日でも必ず返信せよ」
・「会食に送迎せよ」
・「絵文字を使え」
・「下の名前で呼べ」

そして極めつけは
・「殿と呼べ」

弁護士は裁判で「支配従属の構図そのもの。封建社会の再現のようだ」と評した。

書かされた「誓約書」

女性はさらに、首長から手書きで「誓約書」を書かされた。

女性が書かされた誓約書(コピー・一部を加工)
女性が書かされた誓約書(コピー・一部を加工)

「何事があっても別れない」「長い付き合いを誓います」そして最後には「この誓いを破ったときは、いかなることをされても異議はありません」と記されていた。

不貞を強制するような内容であり、法的効力は当然ない。それでも女性は、職務や家族への影響を恐れ、従わざるを得なかった。

不信任と議会解散 小さな村を揺るがした混乱

女性の訴えは村政全体を巻き込んだ。

2015年、村議会は首長への不信任決議を可決。14人中12人が賛成する圧倒的多数だった。

しかし首長は、これに対抗して議会を解散。予算審議は滞り、村政は混乱に陥った。最終的に首長は退職届を提出し辞職に追い込まれたが、その過程は「住民を顧みない延命策」と強い批判を浴びた。

裁判所の判断「セクハラは否定、パワハラは認定」

訴訟は2018年に仙台地裁で判決が下された。

性行為の強要については「合意の可能性が高い」として証拠不十分。セクハラは認められなかった。

一方で「関係を壊すなら人事を白紙にする」といったメールは明確に職務権限の濫用とされ、パワハラと認定。

裁判所は元首長に165万円の支払いを命じた。

判決後、元首長側は「主張が基本的に認められた」とコメント。女性側は「セクハラが否定されたのは納得できない」として控訴を検討した。

“記録”が裁いたパワハラ

裁判で決定的な役割を果たしたのは、女性が保存していた膨大なメールだった。

「性行為の強要」については立証が難しかったが、「人事を白紙にする」などの文面は、職務権限を背景にした明白なパワハラとして認定された。

権力者と対峙する際、“記録を残すこと”がいかに重要か。この裁判は、その現実を突きつけた。

問われる自治体トップのモラル

「村長室で性行為を迫られた」「殿と呼べ」異様な言葉が記録に残った裁判は、宮城の小さな村を揺るがし、全国の注目を集めた。誓約書、1300通のメール、不信任と議会解散。小さな村を混乱に陥れた一連の出来事は、過去の話では終わらない。

首長のモラルが揺らげば、自治体そのものが揺らぐ。そして、証拠がなければ声は届かない。

数年を経た今こそ、この裁判が突きつける教訓を忘れてはならない。

(仙台放送)

仙台放送
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