火葬の際に棺に入れる副葬品が、思わぬ影響を及ぼしている。
故人のゆかりの品や風習として入れる10円玉が、火葬炉を傷めることがあるのだ。
火葬の件数が増える中、深刻な問題となっている。
“10円玉”などの副葬品が与える影響
札幌市手稲区の山口斎場。
29の火葬炉があり、1日平均40件の火葬が行われている。
「こちらの台車、まだ熱を帯びています。きょう、使用したものですか?」(八木 隆太郎フィールドキャスター)
「はい、そうです。こちら、まだらになっています」 (札幌市山口斎場 妻木治支配人)
使用された火葬用の台車には黒や青くこびりついた跡や、ガラスと思われる光るものが残っている。

「眼鏡や、“さんずの川”を渡るためという言い伝えの硬貨、金属類、プラスチック類が付着しやすい。もう1回、手入れをしないといけない」(札幌市山口斎場 妻木支配人)
故人のゆかりの品や、古くからの風習にちなんだ硬貨などの副葬品が焼き付いてしまうことがあるのだ。
火葬が終わる度に金属製のへらを用い、複数人が1時間ほどかけてはがす。
その間、次の火葬を行うことはできない。
台車の損傷も進み、本来約800回は使えるところを500回ほどで取り替えねばならないという。

10円玉は“さんずの川の渡し賃”
特に苦慮しているのが10円玉などの硬貨だ。
「“さんずの川の渡し賃”として入れる風習があると聞いた」
「言い伝えの“六文銭”の代わりに10円玉を入れた。火葬後の10円玉は“お守り”として持っていた」(いずれも北海道民)
故人が生と死を隔てる川を渡る際に必要だという言い伝えから、棺に「渡し賃」として10円玉を入れる風習が残っているとみられる。

また、火葬後の10円玉をお守りにするという慣習もあるようだ。
北海道の葬儀に詳しい専門家は。
「お金を棺に入れること自体は、全国各地で広く見られます。葬儀場で模擬紙幣を代わりに用意したりするが、北海道は硬貨を入れる習慣が残った」(北海道博物館 学芸員〈民俗学〉 尾曲香織さん)

硬貨以外にも― 副葬品が招く問題
10円玉をはじめ、さまざまな副葬品がいま問題となっている。
金属やガラスは台車や遺骨に焼き付き、プラスチックなどは不完全燃焼を起こしやすく、有害なダイオキシンの発生も懸念される。
火葬炉の劣化や、遺骨の変色を招くなどの問題にもなるのだ。
「札幌市の条例で、棺の中に火葬や収骨の妨げになるものを入れてはいけないという決まりがある」(札幌市施設管理課 藤田賢一課長)

しかし、古くからの風習で棺へ副葬品を入れる習慣が根強いのも事実だ。
「故人を思う気持ちを優先してもらえたら」
「使っていたものは身につけてあげたい」(いずれも北海道民)
札幌市は新たにチラシを作成し、副葬品についての周知徹底に乗り出した。
その背景には。
「2024年度の火葬件数が約2万6400件。年間500件くらい増えている。台車にこびりつくと清掃するけど追いつかない」(札幌市施設管理課 藤田課長)

増え続ける火葬件数 札幌市の切実な訴え
札幌市営の火葬場は、手稲区の山口斎場と清田区の里塚斎場の2か所。
火葬件数は年々増加し、市によると2054年度には約3万2800件に達すると予測されている。
また、今後施設を休止して改修を行う場合、1か所のみでは火葬まで何日も待つなど影響が出る恐れがあるとしている。
そのため、火葬炉を傷める副葬品への市民の理解を深めたいというのだ。
札幌市では副葬品を写真にとって納めるよう呼びかけている。
(北海道文化放送)
