スイスの名門バレエ団「ベジャール・バレエ・ローザンヌ」に所属する富山市出身の武岡昂之介さん(23)が、この夏、故郷富山で特別公演に出演した。世界トップレベルのダンスを披露し、観客を魅了した。

世界の舞台から故郷へ


世界トップのダンサーが集まるスイスの名門バレエ団に所属する武岡さんは、バレエ団のシーズン終了後、約1年ぶりに帰国。帰国した翌日から、母・知美さんが代表を務めるバレエ教室の20周年記念公演に向けて練習に取り組んだ。
この特別公演には、バレエ教室を卒業し世界で活躍するダンサーや、国内トップレベルのKバレエや東京シティバレエ団に所属するダンサーなど豪華ゲストが集結した。元新国立劇場バレエ団プリンシパルの菅野英男さんは「東京だとバレエ団が集中しているので結構あることだが、いち地方でこれだけのメンバーが集まるのはなかなかないこと」と評価した。
3歳からのバレエ人生

武岡さんがバレエを始めたのは3歳の頃。母が指導者という恵まれた環境もあり、バレエに魅了されるのにそう時間はかからなかった。オランダの国立バレエ学校に進学する15歳までこのスタジオで母・知美さんに基礎から教わった。

「自分は身長大きいほうではなく、華奢なので、力技はしないが、日本人としての強みを出せたらと思っていて、日本人の繊細さや技術的な追及の仕方、そこで勝負していきたい」と武岡さん。
長い手足を活かしダイナミックに表現する世界のバレエダンサーの中では、決して恵まれた体格ではない。しかし、その姿勢と美しい踊りは海外で高く評価され、歴史的な作品「火の鳥」の主役にも大抜擢された。
母との二人三脚

母として、時に先生として武岡さんと二人三脚で歩んできた知美さん。子どものころに言われたある言葉を今でも忘れないという。


「あるとき、小学生のときかな。『お母さんは僕だけのお母さんになったことがない』と宣言されて。すごい嫌だったと思う本人は。帰ってきてもバレエばっかりで」と知美さんは振り返る。
スタジオを立ち上げて20年。スイスやドイツなど国内外のバレエ団にプロダンサーを輩出している。レッスンは休みなく、遅いときには夜10時を超えることも少なくない。

「親と先生の区別がつかない、向こうも息子と生徒の区別がついてなかった。先生から注意をもらっているのにお母さんから注意されていると思っちゃって。そのとき、自分を理解しようとしてくれたというのはわかってた。自分が変わらないと。自分が何したいかもう一度考えたらバレエ」と武岡さんは語る。
特別許可の作品で魅了
今回の公演で武岡さんが披露したのは、バレエ団の公式な公演でしか踊ることが許されていない世界で名高い演出家「モーリス・ベジャール」の作品だ。「母の公演で踊りたい」と自らバレエ団の芸術監督に交渉し特別に許可を得た。

一般的なクラシックバレエのイメージとはかけ離れたコミカルでかつ踊り手の美しさを引き出す作品に、観客はすぐに目を奪われた。


「富山で見られるとは感激」「すごくカッコよくてパワフル。見入ってしまいました」「現実離れしたような、ダンスの空間に引き込まれるような感じがした」と観客からは称賛の声が上がった。

武岡さんは「いろいろ難しかったがモーリスベジャールさんの作品の良いところをお見せすることができたのかなと思う」と満足げに語った。