“令和のコメ騒動”に端を発し農政の課題が浮き彫りとなる中、福井県内では主力のコシヒカリの収穫に農家が精を出している。政府は増産や作況指数の廃止など、大きな政策転換を図っているが、生産現場からは困惑の声も。果たしてコメ価格の安定につながるのだろうか。

コメに関する“指数”の精度は―

9月10日正午前、福井市内の田んぼにコンバインの音が響いていた。午後からは雨予報が出されている。
  
「きょうは昼ごはんなしや」
  
そういって農家の河戸文雄さんはコシヒカリの刈り取りに精を出す。
     
猛暑や水不足の影響が心配されていたが、河戸さんの田んぼではコシヒカリの出来は上々で、収穫量も去年よりは少し多いと期待している。
  
2024年夏以降、長引く“令和のコメ騒動”。その一因ともされるのが、生産現場での収穫量と、実際に消費者に届くコメの量だ。
  
集荷業者や卸業者を介する過程で、粒の大きさでふるいにかけられ「網下米」となって主食用米としては販売されないことがある。
    
「我々が収穫した後に卸業者が入って、精米されて初めて消費者の手に渡るので、国が出す指標とは相当な開きがあると思いますよ」

雨予報を前に稲刈りを急ぐ河戸さん
雨予報を前に稲刈りを急ぐ河戸さん
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作況指数の算出方法を見直し

コメの出来具合を示す作況指数は、猛暑の影響などが反映されず実態と合わなくなっているという声を受け、小泉農水相が2025年6月に廃止を表明した。
 
農水省は、これに代わる新たな指標を、この秋にも公表する見込みだ。これまでは過去30年間の傾向に基づいて算出していたが、直近5年間のうち最高と最低の年をのぞいた3年間の平均で算出するという。
  
また、例年は7月に示す向こう1年間の主食用米の需給見通しについても、精査が必要として公表が見送られている。

コメの出来具合を示す作況指数
コメの出来具合を示す作況指数

コメの価格安定のために求められる生産体系の確立

「我々農業者は、生産の進め方や米価に不安を感じている」
   
こう切り出したのは、9月10日、北陸農政局に要請に訪れたJA福井県中央会の宮田幸一会長だ。農家が安心してコメ作りができるよう北陸農政局に要請書を提出した。
  
宮田会長は「コメを増産しろと言うが、麦や豆などの転作はどうしたら良いのか。今後の需給見通しを早く打ち出してもらい生産体系を作らないと、コメの価格は安定しない」と訴えた。

要請書を手渡す宮田会長(右)
要請書を手渡す宮田会長(右)

「またコメ価格が暴落する心配がある」

この日、JA福井県中央会と福井県農政連が提出したのは「正確な情報提供等に関する要請書」。まず、今後の作付け計画の重要な指標であるとして「受給見通し」を早急に公表することを求めた。次に、収穫量調査を実施する際の概要を正確に示すこと。
 
加えて、備蓄米についても要請した。放出後の政府備蓄米は、適正備蓄水準の100万トンを大きく下回る29.5万トンとなっている。不足の事態に備えるため早急に適正水準まで戻すこととし、供給過剰になったコメに対しても、農家が再生産可能な適正価格で買い入れることなども求めた。
 
宮田会長は「いまはコメの価格が上がって生産者所得が上がったが、また暴落する心配もある。しっかりとした政策を国から出していただかないと」と強調した。

JA福井県中央会の宮田幸一会長
JA福井県中央会の宮田幸一会長

「コメがあふれると絶対に減反になる」ぬぐえぬ不信感

農家の河戸さんに、政府が打ち出す「増産」について聞くと―
 
「増産は無理。もう農家もどんどんやめているし、これまで放置していた田んぼをこれから田んぼにしようとしても無理。過去を見ると、増産してもコメがあふれると絶対に減反になるから、政府には不信感がある」

増産はそう簡単ではないと話す河戸さん
増産はそう簡単ではないと話す河戸さん

令和のコメ騒動で浮き彫りになった、日本の農業の課題。担い手が減少し続ける中で、安定したコメの生産、安定したコメの価格をどう実現していくのか。今後の農政改革が注目される。

福井テレビ
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