高市早苗首相の“台湾有事”を巡る国会発言以降、日本に対して政治的、経済的圧力を露わにしている中国。その一環とされる日本への“渡航自粛”の呼びかけは今も続き、観光業界を中心にビジネスへの影響を懸念する声が、福岡でも上がっている。
中国クルーズ船 入港回数激減
福岡市の中央ふ頭クルーズセンター。海の玄関口として多くの中国人観光客がクルーズ船で訪れていたが、日中関係の悪化でその様相は一変、閑散としている状況だ。

ふ頭で客待ちをしていたタクシーの運転手は「中国の船、5000人規模が週2~3便、来ていた。(首相発言の)問題以降は、ほぼ入って来ていない。福岡市内を流したり、定期便が着くところにしか(空車で)行かなくなった。確実な客が減っている」とため息を吐く。

福岡市によると中国クルーズ船の入港回数は、2025年1月は14回だったが、2026年1月はゼロに、同じく2月は14回が2回に激減した。

回数が減った理由について福岡市の担当者は「行程の変更による」との説明を受けたとしている。

3月も中国クルーズ船の入港予定はなく4月以降についても調査中の状態だ。
中国 軍民両用品輸出禁止を発表
一方、中国商務省は、日本の20の企業、団体について輸出管理リストに追加し、軍事と民間の両分野で利用可能な軍民両用品の輸出禁止を発表した。日本経済に大きく影響を及ぼしかねない動きだ。中国商務省は「日本が再軍事化することと核保有の企てを阻止するためで完全に合法だ」としている。

これに対し、日本政府は「2月24日、公表された措置について決して許容できず、極めて遺憾。強く抗議するとともに措置の撤回を求めた」(佐藤啓・内閣官房副長官)とコメントしている。今回の輸出規制強化は、希少価値が高いレアアースを含む重要な鉱物資源のレアメタルが対象となっている可能性もあり、自動車や家電、半導体など産業界全体への影響が懸念されている。

「中国依存からの脱却」を求める声は与党内からも強まっている。
中古車内に眠る貴重なレアメタル
いわゆる“チャイナリスク”が広がるなか、いま福岡県や地元企業が取り組む資源循環ビジネスが注目されている。官民一体で目指すのは、EV電気自動車のバッテリーに使用され、中国への依存度が高いレアメタルの国内リサイクルだ。

その最前線のひとつ。北九州市若松区にある自動車の解体工場『西日本オートリサイクル』。この工場ではEV電気自動車も回収されていて、車体から取り外した部品のなかから再利用可能な素材がリサイクルされている。

EVに搭載されている電池、リチウムイオンバッテリーもリサイクルされる部品のひとつで、バッテリーのなかには、モジュールと呼ばれる箱型の組み電池が入っていて、さらに細かく分解される。

『西日本オートリサイクル』の倉光紀一郎・課長は「モジュールのなかにセル(単体)が入っている。これを取り出している」と説明する。

EVバッテリーの原材料に入っているリチウム、コバルト、ニッケルといったレアメタルのなかでもリチウムとコバルトは、鉱石から不純物を取り除く精錬工程で、中国が世界シェアの6割以上を占めていて、日中関係の拗れにより供給が不安定になるとの懸念もある。

また、国内の新車EV販売台数は、年間約6万台だが、中古EVの多くは、海外に輸出されている。と同時にリサイクル可能な大量のEVバッテリーも海外へと流れ出ていることになる。

日本総研の調べによると国内からの中古EVの海外流失額は、推計で約175億円に上るとされている。
EVバッテリーの資源循環モデル
資源の流失阻止、国際リスクの回避、こうした視点をベースとして全国に先駆けた取り組みが、福岡県で進んでいる。EVバッテリーの資源循環モデル『GBNet福岡』だ。

県が主導するこの事業に参画したのは、自動車メーカーやリサイクル業者など17社。使用済みのEVバッテリーからレアメタルを抽出し、新品バッテリーの原材料として再生利用することなどを目指している。

GBNetに参画したリサイクル業者『日本磁力選鉱』。北九州市若松区の工場では、小型家電やスマートフォンのバッテリーなどを熱分解による無害化処理を経て、ブラックマスと呼ばれる中間生成物の回収を行っている。

回収されたブラックマスのなかに含まれているコバルト・ニッケル・リチウムを精錬メーカーで精錬回収する。

工場では、GBNetに関わる事業を本格化させるためEVバッテリーに対応した設備を2026年6月に導入する予定だ。

『日本磁力選鉱』の菊川剛・次長は「資源が乏しい日本、福岡県内で資源の循環ができることが一番、重要。リサイクル業者として力をお貸しすることができれば」と話す。
APEC開催の11月まで今の状態か
希少な鉱物であるレアメタルの資源循環。EV先進国の中国は、レアメタルを含むバッテリーをリサイクルするため独自の政策を推し進めているとみられ、専門家はレアメタルの獲得が今後、厳しさを増すと指摘する。

『日本総研 創発戦略センター』の籾山嵩さんは「中国は国家主導で資源循環プロセスを確立しつつある。バッテリーを資源循環の輪から逃がさないような制度が高水準でできてきている。彼らは、ただでさえ埋蔵量が豊富に持っている上に、循環システムによって資源の囲い込みができている。中国から電池や資源の輸入はどんどん難しくなる」と分析する。

西日本新聞で前中国総局長の上級専門委員、坂本信博さんによると「日本にとって中国は最大の貿易相手国であるが、中国にとっての最大の貿易相手国はアメリカ。日本は3番目。ただ中国経済もいま、非常に冷え込んでいるので、自国に影響のない範囲で日本への経済的威圧をこれからも強めてくると思われる。11月に中国で開催されるAPECまで、今の状態は続くのではないか」と話す。

福岡で立ち上がったレアメタルのリサイクル。日本の経済安全保障の一翼を担う事業へと成長できるのか。今後の動きに注目だ。
(テレビ西日本)
