アメリカとイスラエルがイランへの軍事攻撃に踏み切ったことで、中東情勢の悪化が世界のエネルギー情勢に大きな影響をもたらす公算が強まってきた。国際的な指標となる原油先物価格は、先週末に7カ月ぶりの高い水準をつけたが、週明けに一段と上昇する可能性が高い。原油の9割を中東地域に頼る日本は、影響の広がりに注視が必要な局面になっている。

1日100隻以上が通る要衝

急速に懸念が広がっているのが、ホルムズ海峡が通航できなくなる事態が現実味を帯びてきたことをめぐるものだ。イラン革命防衛隊は海峡を封鎖したと発表し、イギリスの海事当局も海峡封鎖の呼びかけがあったことを確認している。

“世界の海運の要衝”ホルムズ海峡
“世界の海運の要衝”ホルムズ海峡
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ホルムズ海峡は、北側にイラン、南側にアラビア半島のアラブ首長国連邦(UAE)やオマーンが位置し、ペルシャ湾とインド洋を結ぶ原油や石油製品の重要な輸送ルートだ。全長約100マイル(161キロメートル)で、最も狭い部分の幅は30キロほどしかなく、タンカー通過に十分な水深があるのは6キロ程度とされている。

IMF(国際通貨基金)の調査によると、1週間前の2月22日にホルムズ海峡を通過した船舶は137隻で、うち半分以上の73隻がタンカーだ。

アメリカのEIA(エネルギー情報局)が公表した報告では、2024年にホルムズ海峡を通過した原油は1日当たり約2000万バレルと、世界の石油消費量の約20%にあたる。サウジアラビアで紅海沿いの港へのパイプライン、UAEではオマーン湾へのパイプラインなどがあるが、輸送能力は限られ、ホルムズ海峡が閉鎖された場合、原油を輸送する代替手段はほとんどないと指摘している。日本が輸入する原油では80%がホルムズ海峡を通過する。海峡を通れなくなる事態が現実のものになれば、日本の原油輸送にも大きな影響が生じることは避けられない。

高まる原油・LNGの供給懸念

原油相場は上昇ピッチを強めている。代表的な指標となるWTIの先物価格は、先週末の2月27日、一時1ドル=67.83ドルをつけたほか、北海ブレンド先物も73ドルをつける場面があり、ともに約7カ月ぶりの高い水準となった。

アメリカ軍は「エピック・フューリー(壮絶な怒り)」作戦を展開
アメリカ軍は「エピック・フューリー(壮絶な怒り)」作戦を展開

アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)が2月18日に公表したシナリオでは、イランがホルムズ海峡の通過分を標的として原油輸送を妨害した場合、原油価格は1バレル=90ドルを超える可能性があるとしている。輸送運賃と保険料が上昇し、船舶運航事業者の間では撤退の動きが出て、トレーダーが混乱の規模を評価するにつれて上昇基調が一段と強まっていく。

さらに、アメリカやイスラエルがイランの石油施設への直接攻撃に踏み切った場合は、長期にわたって供給が減り、100ドルを超える可能性があり、イランがサウジアラビアなどほかの湾岸諸国の石油施設への攻撃を行う事態にまで発展すれば、2022年のロシアによるウクライナ侵略開始直後につけた水準を上回って、130ドル超となり、歴史的な高騰につながるケースも想定されるという。

エネルギー情勢でのさらなる懸念は、LNG(液化天然ガス)価格をめぐるものだ。

LNGタンカー(資料)
LNGタンカー(資料)

LNG市場の7割を原油価格に連動する長期契約が占めていて、原油の値上がりはLNG価格全体を押し上げることになる。また、世界のLNGの約2割が、カタールやUAEなどからホルムズ海峡を通過して供給されていて、海峡封鎖の場合、LNGでも大きな影響が出ることが懸念されている。2025年にアメリカ軍がイランの核施設を攻撃した際には、運搬船がホルムズ海峡の外で待機する動きも出た。日本のカタールとUAEからのLNG輸入分は5%程度にとどまるが、海峡経由の供給が絶たれた場合、大口購入国の中国が代替調達を急ぐことが想定され、アジア向けスポット価格全体の値上がりを招くことが心配されている 

ガソリン・電気ガス料金は上昇か

原油やLNG価格の上昇は、ガソリンの値段や電気・ガス料金を押し上げる可能性がある。2月24日時点で国内のレギュラーガソリンの平均小売価格は1リットルあたり157円10銭と、前の週より40銭高くなり、2週連続での上昇となっている。今週は数円単位での値上がりを見込む声も出ていて、上昇が続いていく流れも予想される。

電気・ガス料金は、1月~3月使用分については政府の補助が実施されているが、原油・LNG相場で上昇基調が強まっていけば、実際の市場価格への反映を通じて、夏以降の電気・ガス料金が影響を受ける可能性がある。

リスク回避ムードに身構える市場

注視されるのが、週明けの市場の動きだ。

原油価格は、2025年6月の米軍によるイラン核施設攻撃の際には、1バレル=78ドルまで急騰していて、1バレル=80ドル超えが現実化するかが当面の焦点になりそうだ。株式相場では、中東情勢悪化を受けて最初に開く主要市場が東京となる。先週の日経平均株価は、連日で最高値を更新し、週間で2000円を超える上げ幅となったが、リスクを避けようと、安全資産への資金逃避の動きが拡大すれば、相場は下落する方向に傾くことになる。

さらなる軍事衝突のエスカレートが懸念されるなか、エネルギー供給をめぐるリスク要因が一段と強まりつつあることで、世界経済の先行き不透明感が大きく広がる展開になってきた。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、経済部にて兜・日銀キャップ、財務省・内閣府担当、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、農水省政策評価第三者委員会委員