岩手県宮古市には、その地名にまつわる興味深い由来が伝わっています。
首都を意味する「都(みやこ)」と同じ読み方の宮古市、また、市北部には「女遊戸(おなつぺ)」という特徴的な地名もあります。
どのような由来があるのかを探ります。
宮古市という地名はどのように生まれたのでしょうか。
長年にわたり県内各地の地名について調査している宍戸敦さんは、市内にある横山八幡宮が地名の起源と考えています。
「宮古は横山八幡宮という神社があるところという意味の『みやどころ』、『宮処』という字が『宮古』になったと考える。また、地域の中心の場所を『都』という言葉で表すこともあるため、沿岸部の中心という意味も含んだ複合的な理由と考えられる」と宍戸さんは説明します。
横山八幡宮には、宮古の地名にまつわる興味深い伝説も伝わっています。
宮古市教育委員会の市史編さん室・田崎農巳室長によると、「約1020年前、阿波の国(現在の徳島県)の鳴門で天変地異が起きた際、横山八幡宮の禰宜が神のお告げを受けた」といいます。
田崎農巳室長
「神様からのお告げで『山畠に 作りあらしの えのこ草 阿波の鳴門は 誰かいふらむ』という歌を詠むよう指示され、阿波の鳴門でそれを詠み天変地異が収まった。この功績を天皇が喜び、『都(みやこ)』と同じ読み方の『宮古』という地名を与えられたという伝説が伝わっている」
横山八幡宮に隣接する宮古市立第一中学校の校庭には「さかさ銀杏」と呼ばれる木があります。この木も宮古の地名にまつわる伝説に関係しているといいます。
田崎室長は「昔は横山八幡宮の境内がここまであり、阿波の鳴門を鎮めた禰宜が旅で使った杖を庭に挿したところ、そこからイチョウが生えてきたという言い伝えがある」と語ります。
宮古市北部にある「女遊戸(おなつぺ)」という地名も興味深い地名です。地元では「おなっぺ」とも読む人も多いこの地名について、宍戸さんが説明します。
宍戸敦さん
「宮古の沿岸の辺りに『女遊戸(おなつぺ)』という地名がある。この地名はおそらくアイヌ語系の地名と考える。この地域に沢山川という小さな川があるが、普段は水が流れていない枯れ川。その枯れ川を考えると『オサツペ』。『オ』は川尻・河口、『サツ』は乾いている状態、『ペ』は川を意味する。『オサツペ』が変化して『女遊戸(オナツペ)』になったのではないかと考えらる」
女遊戸で民宿を営む前川光幸さんによると、沢山川は普段は水が流れていませんが、大雨の際には勢いよく水が流れ、時には氾濫の危険もあるといいます。
「昔、川があふれて家の中に入りそうになったこともあった」と前川さんは振り返ります。
普段は水が流れない川も、大雨の時には氾濫の恐れがある。女遊戸という地名は、地域に伝わる災害の記憶を語り継いでいるのかもしれません。地名に刻まれた先人たちの知恵と警告が、現代にも受け継がれています。