岩手県の「大槌町」と、町内にある地名「吉里吉里」について、どのような由来があるのかを探ります。

岩手県大槌町は沿岸部のほぼ中央に位置し、山と海に挟まれた自然豊かな町です。
長年にわたり県内各地の地名について調査している宍戸敦さんによると、「大槌」という地名は接頭語の「お」と「土(ツチ)」がついた形だといいます。

「川によって泥が堆積した場所・地域を大槌というのだと考えます」と宍戸さんは説明します。

大槌町内には「小鎚」という地名もあり、「大槌」は木編の「槌」、「小鎚」は金編の「鎚」と漢字が異なります。これには歴史的な理由がありました。

宍戸敦さん
「もともと“大槌”と“小鎚”は、同じく木編の“槌”という字を書きました。江戸時代前半の寛文年間に境界のことで問題が起こり、解決策として『才の鼻』という山の辺りから『二ツ磯』を直線で結んだところを境界にしようということになりました。その時点から大槌が木編の『槌』、小鎚が金編の『鎚』に変わったと言われています」

あえて漢字を変えることで、お互いの地域をはっきりと区別できるようにしたということです。

大槌町の大きな特徴は豊富な湧水です。
30年以上この地域に住む小川旅館の小川勝己さんは「町の中心の町方地区に200近くの湧水があり、一般家庭の生活用水として使われていた」と話します。

東日本大震災後、盛り土によって湧き水の数は減りましたが、今もなお多くの湧き水が町に残っています。
小川さんは大槌町の湧き水マップも作成しました。

八日町公園にある湧き水施設では、上段で野菜や果物を冷やし、下段で食器などを洗い、常に生活用水として使っていました。この設備は「きっつ」と呼ばれ、小川さんによると「木櫃」が語源だといいます。

「数百年前はコンクリートがないので木でできていた。『木』の『櫃』が『きっつ』という形の名称になった」と小川さんは説明します。

大槌町には「吉里吉里(きりきり)」という珍しい地名があります。
この由来について宍戸さんは「いわゆる『鳴き砂』から来たものだと考えられる」と話します。

宍戸敦さん
「かつて砂浜を歩くと“キュッキュ”とか“キリキリ”と鳴くから『吉里吉里』という地名になったと考えます。同様の“吉里吉里”という地名は北海道にもあり、かつては『キリキリ』と呼ばれていた場所が現在は太櫓海岸(ふとろ海岸)という名前になっています。多分似たような“キリキリ”という感じの砂の鳴き方をしたんじゃないかと思います」

残念ながら、吉里吉里の砂浜では特徴的な音は確認できませんでしたが、地名にはかつての風景や音を今に伝える大切な役割があることを実感します。

大槌町を潤した湧き水や、鳴き砂があった吉里吉里の浜。姿や音は変わっても、その記憶は地名と景色に残り続けています。

なお、住所表記として「吉里吉里」は主に吉里吉里駅周辺の住宅街で〇〇丁目が付き、「吉里々々」は「吉里吉里」以外の場所で第〇地割が付く区域となっています。

岩手めんこいテレビ
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