気象庁が過去最長の7年9カ月続いた「黒潮大蛇行」の終息を発表した。

その影響は早速、私たちの食卓にも…

記録的な不漁だった魚が一転して豊漁に!?一方で、不安を感じる漁業関係者も。

いま、海で一体何が起きているのか。黒潮大蛇行の終息が私たちの食卓に与える影響を取材した。

黒潮大蛇行の終息が私たちの食卓に与える影響は
黒潮大蛇行の終息が私たちの食卓に与える影響は
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■サンマは豊漁!去年に比べて半額程度で販売

これから旬を迎える秋の味覚・サンマ。

記者リポート:脂がのってとってもおいしいです。サンマですが、今年、漁獲量が増えているというんです。

こちらの店では、去年1尾約600円程度だったサイズのサンマを今年は約300円程度で販売している。

まぐろパーク堺本店 吉田剛志店長:去年とは打って変わって身も丸々ふとって、お値段もお安く提供できています。

サンマが豊漁に
サンマが豊漁に

■過去最長の「黒潮大蛇行」が収束

サンマは近年、不漁が続いていたが、今年は一転して豊漁が期待されていて、その一因と言われているのが、「黒潮大蛇行の終息」だ。

気象庁海洋気象情報室 高槻靖予報官:大蛇行には戻らないということで終息しましたと判断した。

先週、気象庁は約7年9カ月にわたって蛇行していた黒潮がことし4月に正常な流れに戻っていたと発表した。

そもそも暖かい「黒潮」は九州から関東にかけて本州に沿うように流れている。

しかし、2017年8月頃から、海底山脈付近で発生した渦にはじき出されるように蛇行して流れるようになり、「黒潮大蛇行」と呼ばれていた。

黒潮大蛇行は、1965年以降で6回発生していますが、7年9カ月の期間は過去最長。これにより、海の環境は大きく変わった。

気象庁海洋気象情報室 高槻靖予報官:魚も暖かいところが好きな魚、冷たいところが好きな魚とありますので。沿岸の水温もかなり変わっていたので、藻類とかにもかなり影響があったという話は聞いています。

「黒潮大蛇行」
「黒潮大蛇行」

■和歌山でのカツオ漁獲量増加から減少の背景には「黒潮大蛇行」の影響が

黒潮大蛇行が終息したことで、私たちの暮らしにどのような影響があるのか。

取材班は和歌山県白浜町の漁港に向かった。港に戻ってきたのはカツオ漁の船。

和歌山県は全国有数のカツオの水揚げ量を誇る。

(Qきょうはどの辺で漁を?)
ひろ福丸・濱弘孝船長:きょうは四国の徳島の沿岸部で。4日ほど前から四国の方に遠征」
(Qなぜ遠くに?)
ひろ福丸水産・濱弘孝代表:もうないから、釣れないから。

濱さんによると、和歌山県沖でカツオが穫れなくなり、この日は徳島方面に漁に出ていたという。

ひろ福丸水産・濱弘孝代表:5月から(カツオ漁)始めているけど、5月からちょっと少ない。7月8月からガタンと落ちた。

和歌山県沖は、ここ数年カツオが豊漁で、3年前のセリを見てみると、かご一杯のカツオが市場に広がっていた。

カツオが豊漁だった和歌山で異変が
カツオが豊漁だった和歌山で異変が

■「黒潮大蛇行」の影響で和歌山のカツオは1.7倍も漁獲量が増加

その背景には大蛇行の影響があったとみられ、カツオが好む暖かい黒潮の一部が和歌山の近海に流れ込み、沢山獲れていたとみられる。

和歌山県の水産試験場によると、大蛇行が発生していた7年間のカツオの漁獲量の合計は、発生していなかった7年間と比べ、およそ1.7倍になっていた。

「黒潮大蛇行」の恩恵を受けていた和歌山のカツオ
「黒潮大蛇行」の恩恵を受けていた和歌山のカツオ

■大蛇行が終息した影響か、カツオの漁獲量が最盛期の10分の1に減少

そんな中、終息した大蛇行。その異変は7月の取材時にも。この日獲れたカツオはおよそ600キロで、多いように思ったが…

ひろ福丸・船員:獲れているときは(1日で)4トン、6トンと“トン”になってくるので、それに比べたらやっぱ物足りないかなと。

最盛期に比べるとおよそ10分の1の量。大蛇行が終息した影響か、カツオの漁獲量が減っていたのです。

(Q漁獲漁が少ない状態が続くと?)
ひろ福丸水産・濱弘孝代表:厳しい、経営的にな。厳しい厳しい。
(Qもうけは?)
ひろ福丸水産・濱弘孝代表:ないよ今日なんかマイナスやわ。これだけの人件費と経費と諸々引いたら全く残らへん。

ひろ福丸水産・濱弘孝代表
ひろ福丸水産・濱弘孝代表

■「黒潮大蛇行」の終息を期待をもって見守る人たちも

一方で、黒潮大蛇行の終息を期待をもって見守る人がいると聞き、向かったのは“ひじき”の加工場。

(Q作業はされてないんですか?)
姫ひじき生産組合・寺本ひろ子さん:もうね、“ひじき”がないもんで、休んでいます。4~5年になるね。使わないようになってから。電気も水道も一応止めています。もう作業がないから。

串本町の姫地区で獲れる肉厚で柔らかい“ひじき”は「姫ひじき」と呼ばれ、全国から注文が入るほどの人気を集めていたが、4年前からは全く刈り取りができていない。

毎日60キロの“ひじき”を炊いていた大きな窯は今…

姫ひじき生産組合・寺本ひろ子さん:ほこりでほこりで。毎年、“今年は今年は”と言ってね、思いあるんですけどね。磯を見に行ってますけどなかなかね。

姫ひじき生産組合・山田節子さん:寂しいけど。身体もだんだんと歳いってくるから、もうね…。

姫ひじき生産組合・寺本ひろ子さん、山田節子さん
姫ひじき生産組合・寺本ひろ子さん、山田節子さん

■黒潮大蛇行の終息で長年採れていなかった「ひじき」に回復の兆し

串本町で長年、親しまれてきた「姫ひじき」。

終息が発表された今、海を見に行ってみるとそこには…

姫ひじき生産組合・山田節子さん:藻ですね。これがあちこち、磯に生えてくるようになっていますけどね。今までも全然なかったからね。

(Qいつぐらいからなかった?)
姫ひじき生産組合・山田節子さん:4~5年ですね。

“回復の兆し”か、藻が見つかった。

姫ひじき生産組合・寺本ひろ子さん:“姫ひじき”って本当に美味しいって言われてるんでみんなに食べていただきたいと思いますけどね。

大蛇行の終息で聞こえる期待と不安の声。

“回復の兆し”?
“回復の兆し”?

■専門家は、「すぐに大蛇行が再開する可能性もある」と指摘

一方で専門家は、すぐに大蛇行が再開する可能性もあると指摘する。

海洋研究開発機構 美山透主任研究員:(大蛇行を引き起こす)渦がまだそこら辺にいるので、これをきっかけに黒潮大蛇行が再開する可能性というのはあってこの2カ月間ぐらいの間に再開する可能性もまだある。

私たちの食卓に大きな影響を与える黒潮大蛇行。今後も注視する必要がありそうだ。

海洋研究開発機構 美山透主任研究員
海洋研究開発機構 美山透主任研究員

■「行政の支援も必要」ジャーナリスト鈴木哲夫さん

「黒潮大蛇行」は私たちの食卓にどういう影響があるのか。

今後、漁獲量が増えそうなのが、サバ、サンマ、シラス、イセエビということだ。

ただ、いつ「黒潮大蛇行」が再開するか分からないということだ。

ジャーナリスト鈴木哲夫さん:(漁業に)携わってらっしゃる方たちは、(漁獲量が)安定しないのはものすごく不安だと思うんですよね。温暖化を含めて、海の状況がどんどん変わってきている。何らかの行政の支援も必要だと思いますね。

(関西テレビ「newsランナー」 2025年9月3日放送)

ジャーナリスト鈴木哲夫さん
ジャーナリスト鈴木哲夫さん
関西テレビ
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