身近な学校施設を活用した新たな水害対策の実証実験が始まっている。福島県郡山市の日本大学工学部では、キャンパス内のグラウンドを一時的な遊水地として活用する取り組みが進行中だ。大雨時に水を一時的に貯め、周辺地域の水害リスクを低減する画期的な試みに注目した。
東日本台風で大きな被害
福島県郡山市にある日本大学工学部。ここは2019年の東日本台風で大きな被害を受けた。東日本台風では、短い時間に激しい雨が降り、阿武隈川が氾濫。また支流の堤防が決壊するなどし、流域に大きな被害をもたらした。

日本大学工学部がある郡山市田村町でも、近くを流れる阿武隈川の水が溢れ、内水氾濫が起きるなどして、学生が暮らす寮や学内も浸水被害が相次いだ。

土木工学科の手塚公裕准教授は、当時のことについて「浸水は背の高さを超えています。ここの部屋にいた先生は、すべて沈んだと。これまで貯めていたデータも消えたということで、かなりショックを受けていました」と語る。
グラウンドを"浅い池"に変える
手塚准教授は、東日本台風を機に“ある場所”を、一時的に水を貯める遊水地として活用しようと考えた。その場所が学内のグラウンドだ。

実証実験ではグラウンドの一部を使い、雨水を貯め込むために周りを盛り土で囲む。こうすることにより、一時的に浅い池のような役割を果たし、周りへの浸水被害を軽減させる狙いだ。
グラウンド遊水地の能力
大学のそばにある阿武隈川の旧河道・古川池。東日本台風で水が溢れたことから、河道掘削工事をして、3万6000立方メートルの雨水を追加で貯めることができるようになった。

仮に、学内のグラウンドすべてを遊水地として活用した場合、約5万2000立方メートル。古川池よりも1.5倍ほど多く雨水を貯められることがわかった。

手塚准教授は「さらにうまく行けば、全国にグラウンドは沢山あるので、そういうところでも出来るだけ簡易に出来るような方法を提案していきたい」と話した。
産学連携で進む実証実験
2025年9月には実証実験の工事が完了して、これからの出水期にどれだけの水が貯められるか検証していくという。
また、今回の実証実験では工事に関してほとんどお金がかかっていないという。この工事を主に担当しているのが大手建設会社の新入社員で、社員研修として無償で工事を請け負ってくれているという。

さらに、日本大学工学部の学生にとっては、実際に土木工事の現場を学内で見学できる良い機会にもなっている。土木工学科3年の小松崎諒真さんは「自分が教員の立場になって教える際にも、こういう技術がたくさん増えている、土木ってすごいということを伝えられたらいいと思う」と話した。

学生の勉強・新社会人の研修にもなり、実用化されれば近隣の住民を水害から守れるというウイン・ウイン・ウインの関係。まだ始まったばかりの取り組みだが、今後の成果に注目だ。
(福島テレビ)