8月21日~23日にアメリカ西部のワイオミング州ジャクソンホールで開かれるシンポジウムに、世界の市場関係者の視線が注がれている。この会議は、中央銀行の幹部や著名なエコノミストらが避暑地に集まって世界経済や金融政策の課題について議論を交わす場で、これまでもたびたび重要な発信が行われてきた。

利下げ期待にどう向き合うか

今回、関心が集中しているのは、2日目の22日午前8時(日本時間の午後11時)に行われる講演で、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)のパウエル議長が、利下げをめぐってどう発言するかだ。

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FRBは、7月末の会合で、5会合連続での政策金利据え置きを決めた。パウエル議長は会見で、トランプ政権による関税措置に伴うインフレリスクを踏まえ、利下げを急ぐ必要はないとの認識を改めて示したが、この会合では、ボウマン副議長とウォーラー理事の2人が、トランプ大統領の主張に沿う形で利下げを求めて反対票を投じ、意見対立が浮き彫りになった。  

労働市場の減速への懸念が高まったのは、その2日後の8月1日のことだ。この日発表された7月の雇用統計で、5~6月分の大幅な下方修正とともに、雇用環境の悪化が示され、市場では、FRBが景気を下支えするため、次回9月の会合で利下げ再開に踏み切るとの見方が急速に広がった。12日に発表された7月の消費者物価指数も、上げ幅が市場予想を下回って急上昇には至らず、利下げを織り込む動きが加速した。

ベッセント長官も0.5%利下げ「可能性高い」

利下げを繰り返し求めるトランプ氏と歩調をあわせる形で、ベッセント財務長官もFRBへの圧力を強めている。13日、ブルームバーグテレビの番組で、FRBが決める政策金利について「現在より1.5~1.75%低い水準にあるべきだ」と指摘し、9月の会合で0.5%の利下げに踏み切る可能性が「非常に高い」との認識を示した。

「労働市場の冷え込みのほうを関税の影響よりも気にかけるべきだ」とする意見が広がっているが、トランプ関税が物価や雇用に与える影響は依然として不透明だとする見方も根強い。14日に発表された卸売物価指数の伸びは市場予想を上回ったほか、15日にミシガン大学が発表した8月の消費者態度指数の速報値は4カ月ぶりに低下、1年先の予想インフレ率は上昇し、インフレ再燃に対する警戒はいくぶん強まった形となった。

1年前に利下げをほぼ明言したパウエル議長

1年前の2024年の講演で、パウエル議長は「政策を調整すべき時が来た。方向性は明確だ」と述べ、9月会合での利下げ転換をほぼ明言した。発言を受けて、8月23日のニューヨーク株式市場はほぼ全面高となる一方、外国為替市場の円相場は、日米の金利差縮小が意識され、講演前後で2円以上も円高ドル安が進んだ。その後、FRBは9月会合で、実際に0.5%という大幅な政策金利の引き下げに踏み切り、雇用の下支えへと軸足を移して金融政策を大きく転換した。

8月13日、日経平均は2日連続で最高値を更新
8月13日、日経平均は2日連続で最高値を更新

FRBによる利下げ期待は株価を押し上げ、先週は、アメリカ市場の株高の流れが東京市場にも波及して、日経平均株価が史上最高値を連日で更新する材料にもなった。

金利先物市場で9月会合の利下げ可能性が9割以上織り込まれるなか、パウエル議長が9月利下げをにじませたメッセージを発するのか。早期の利下げをめぐり慎重な言い回しに終始するのか。ロッキー山脈を一望できる高原リゾート地は、2024年に続き緊張感が漂うことになりそうだ。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、経済部にて兜・日銀キャップ、財務省・内閣府担当、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、農水省政策評価第三者委員会委員