老いや介護などをテーマに演劇をする岡山の劇団「OiBokkeShi(オイボッケシ)」が、7月、福岡県久留米市で公演を行った。

99歳の看板俳優の遠征公演、「老いても輝ける」劇団の神髄を舞台で表現した。

〇福岡・久留米市
「ようこそ」
「監督じゃないか」
「ようこそ久留米に」

7月、新幹線などを乗り継ぎ、車いすで約4時間かけて久留米市を訪れた、劇団「OiBokkeShi」の看板俳優・岡田忠雄さん(99)。主宰の菅原直樹さんが出迎える。

「来ちゃいましたよ」
「無事に久留米に来られてよかった」

6月、岡山市で新作公演の舞台に立った岡田さん。劇団では、久留米での公演の話になり…心配なのは99歳と高齢の岡田さんの体調だ。

スタッフが岡田さんに県外での舞台出演について意思を訪ねると・・・「もちろん行くよ」岡田さんは即答した。

しかし、本人の意思とはいえ、99歳だ。しかも、福岡県という遠距離。

岡田さんが過ごす「あゆむの家」で、菅原さんは「岡田さんは出たいけれども、高齢なので体のこともある」と念押しした。岡田さんは、「もちろんそう」と、周囲からの心配を受けていることに理解を示しながらも・・・

「ですけど、生きているということは…行きます」

岡田さんは、生きている限り、役者なのだ。

久留米公演の話に「もちろん行くよ」と即答する岡田忠雄さん(99)
久留米公演の話に「もちろん行くよ」と即答する岡田忠雄さん(99)
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99歳・岡田さんの久留米公演出演交渉のはずが・・・介護職員が公演に“俳優”として参加することに

介護福祉士の資格を持つ菅原さん。岡田さんが入居する施設「あゆむの家」管理者の柴山祐一郎さんと、舞台には欠かせない岡田さんに、無事に出演してもらう方法を模索していた。

柴山さんは岡田さんの遠征公演について「帰ってくるのも劇団と一緒に帰ってきますか?」と尋ねると
「柴山がおるから・・・いやーほんと、他の皆さんも(舞台に)出したい」
なんと岡田さん、柴山さんが久留米公演に同行するかのような反応。主宰の菅原さんも思わず「柴山さん、もし来てくれるなら、柴山さんの役」と打診。すると、岡田さんから「ドクター役で」と設定までされ、笑う2人。

「それも一つ岡田さんの夢ではある」と菅原さん。岡田さんの夢は、どうやら実現へと向かっているようだ。

一方、岡田さんの主治医・橋本健二医師によるドクターチェックが行われた。

「特に悪いところもない、ずっと食べられている、紹介状持って、困ったら電話してもらって行けばいい。頑張ってきてください」

岡田さんの、久留米公演の出演が決定した。

久留米公演出演の意思確認が一転、柴山さんの出演交渉に・・・?
久留米公演出演の意思確認が一転、柴山さんの出演交渉に・・・?

介護者がまさかの初舞台…慣れない稽古で受ける「演技指導」 感じた視線の先に「99歳の看板俳優」

新幹線に乗り、そして久留米に到着。付き添いで介護経験のある俳優に「久留米着きました」と声を掛けられ、「やったー」と喜ぶ岡田さん。そして、劇団の稽古に合流。付き添った柴山さんも、岡田さんの希望通り、舞台に立つことになった。

俳優としては「ど素人」という柴山さん。稽古で慣れないセリフや立ち位置などに挑戦した。

柴山さん演じる医師の三宮が、客席に背を向けて
「主治医の三宮です。(お孫さん効果ですか)それはあると思う」
すると、演出する菅原さんから早くも…「柴山さんこう。こうは向かないで、難しいですが」と、優しく演技指導。

本番前の稽古で客席に背を向けてしまう医師役の柴山さん
本番前の稽古で客席に背を向けてしまう医師役の柴山さん

稽古を終え、「どうですか柴山さん」と菅原さんに声を掛けられた柴山さんは「皆さん迷惑かけます」と恐縮していると、感じたのは岡田さんの視線。「厳しい目で見られているな」と。菅原さんが「楽屋で(岡田さんからの)駄目出しの時間があるかもしれません」

案の定…「あんまりあちこち見過ぎだわ」と、岡田さんからも演技指導を受けてしまう柴山さん。

菅原さんは、岡田さんの付き添いで来るだけでなく舞台に立ってもらうことになった柴山さんの舞台稽古の奮闘ぶりに「介護のつもりが舞台に立ってしまう、介護と演劇の活動の面白い部分」と、岡田さんの希望で実現した、目の前の予想もつかない出来事をこのように表現した。

「介護のつもりが舞台に立ってしまう、介護と演劇の活動の面白い部分」
「介護のつもりが舞台に立ってしまう、介護と演劇の活動の面白い部分」

いよいよ久留米公演本番…介護経験のあるプロの俳優たち、プロの介護者と一緒に作り上げる舞台

いよいよ久留米公演本番。劇団「OiBokkeShi」の舞台には、障害がある人など生きづらさを抱えた人たちが出演している。介護経験のあるプロの俳優たちと一緒に舞台を作り上げていく。

柴山さんの登場場面。
「ちょっと見ていこう」
「主治医の三宮です」
「(お孫さん効果かもしれません)それはあると思います」

舞台裏では、プロの俳優である劇団員が、おかじいの乗った車いすを押し、柴山さんがベッドに移している。菅原さんは「お互いを尊重して信頼関係ができてくる、すると誰かが誰かを気に掛ける形で自然とそういった風景が生まれてきた」と、99歳の看板俳優に限らず、舞台そのものに不慣れな柴山さんも含めてひとつの舞台を作り上げる形についてこう話した。

舞台裏では、岡田さんのセリフを確認中。リュウさんがカンペを出し、そげさんが「シー」と合図。
スタッフが押すベッドに乗ったまま、岡田さんは舞台へ上がった。クライマックスでは岡田さんふんする役どころの男性が、娘への思いを語る重要なシーンが繰り広げられた。

舞台裏で岡田さんをベッドに移す柴山さん
舞台裏で岡田さんをベッドに移す柴山さん

久留米の観客に「とにかく皆さんに会えてうれしい」と感謝の看板俳優 大切なのは「老いても輝ける」居場所

舞台を終えた岡田さん、「とにかく皆さんに会えてうれしい」と挨拶。菅原さんも、「介護のつもりが、いつのまにか舞台に立っちゃう、老いと演劇を体現してくれた2人に感謝している」と、岡田さんと柴山さんに感謝の言葉を述べた。

観客からは「すごく素敵だった。岡田さん。生きる葛藤や皆さんの人生が垣間見られてとても素敵な芝居だった」「岡田さんの半分も生きていないが、表現できることがあればしてみたい、(芝居を)見せられるとまだまだ頑張らないと、と思った」という感想も寄せられた。

“初舞台”を無事に終えた柴山さんは最後にこう語った。
「やはり居場所、どこでも。家でも職場でも、演劇の舞台でも居場所っていうのはすごく大切になってくると思う」

99歳看板俳優の遠征公演。「老いても輝ける」劇団の神髄があった。

舞台を終え、「とにかく皆さんに会えてうれしい」と挨拶する岡田忠雄さん
舞台を終え、「とにかく皆さんに会えてうれしい」と挨拶する岡田忠雄さん
岡山放送
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