夏休み明けの2学期から福岡市などでは、小中学校で学校給食の無償化が予定されている。福岡県内では、既に、給食費が無償化されている自治体もあるが、多様性を認める「選択制」か、小学校のように全員が同じメニューを食べる「全員制」か、各自治体は、その判断に揺れている。

給食「全員制」か「選択制」か

2025年の2学期から給食費が無償化される福岡・大野城市の中学校。小学校は、全員が同じメニューを食べる全員制給食だが、中学校では、選択制が採用されている。

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生徒は、弁当持参かパンの注文、そして、ランチ給食と言われる外注のデリバリー弁当の3つから自由に選択できる。

ランチ給食を選択した生徒は、「好きなチョコパンがあったので…」とその日の気分でパンにしたり、「小学校の時は、自分が苦手な物を食べないといけなかったが、今は自分の好きなものを選べるから」と給食そのものが楽しくなったと話す。

最も多いのは、“弁当持参派”。週5で母の弁当を持参する生徒は、「母のご飯が凄く美味しくて好きなので」とのこと。思い思いに自分の好きなものを食べられる選択制は、生徒達からは、概ね好評だ。

これに対し、保護者では意見が分かれている。「うちの子は、好き嫌いが少しあるから選べた方がいい」などと『選択制』を支持する人がいる一方、「みんなが同じものだと差別化もなくなる。給食の方が親の負担も少ないし子供の負い目もなくなるのでは?」と全員制を推す人も多い。

全生徒が必ず食べられる学校給食を

こうした様々な意見を踏まえた上で、大野城市は、選択制を採用する方針を決定した。同時に、ランチ給食については、市が全額負担。弁当持参やパン購入の場合には、食材費相当額の340円を現金で給付するというユニークな政策を打ち出した。

選択制のメリットとして大野城市は、「アレルギーがある生徒などが弁当を持参しても目立たない」ことや「生徒自身が、何をどれくらい食べるかなど、自己管理能力を育む機会になる」などとしている。

しかし、市民団体『中学校のより良い給食を考える会@大野城』は、2025年6月、市の教育委員会に対して、全員制の中学校給食を求める署名を提出した。

「給食費の無償化はありがたい。ただ、一部、保護者への現金給付だと、ネグレクトの子供や貧困で経済的に苦しい家庭は、お金を先に使ってしまい、きちんと子供の食事に行き渡るか分からない。育ち盛りの中学生にも栄養豊かな学校給食法に則った給食を実施して欲しい」と市民団体の丸山陽子代表は、その理由を説明する。

大野城市の中学校に通うAさん。うっかり注文を忘れて給食を食べないクラスメートを見て、なんとも心苦しかった話す。「給食を食べようとしたら頼み忘れていて、筆箱を弁当箱に見立てて食べるふりをし、給食時間をやり過ごしていたクラスメートを見て、心が痛んだ」。更には、給食時間になると、トイレに隠れる生徒もいたという。「『先生には言わないで』と本人に頼まれ、私はどうしようもできなくて…。でも、先生は、その子がトイレに隠れているのが分かったようで、トイレから呼び戻し、自分の給食を食べさせていた」と給食時間に目にした辛い現実を思い返す。

学校には、予備の食事も準備してあるというが、昼食がない生徒にとっては、思春期特有の言い辛さもあると話す。「恥ずかしさもあるし、先生が心配してくれるが、心配してくれる気持ちが、申し訳ない」。

全員制に給食を移行する自治体も

福岡県内では、太宰府市がこれまで『選択制』だった中学校の給食を、2024年1月、『全員制』へと移行した。

太宰府市 楠田大蔵市長
太宰府市 楠田大蔵市長

「給食が一番の栄養源になっている生徒もいると聞いた。育ち盛りの中学生が、学校の中で栄養に差が出てしまうのはよくない」と楠田市長は、移行の理由を説明する。

また、専門家は、「多様性よりも学校給食の役割を考えるべき。共働き世帯が増えていて、より学校給食のニーズは高まっている」として、学校給食本来の役割を果たすべきだと主張する。

成長期の子供にとって大事な学校給食。多様性を認める選択制か、誰一人取りこぼすことのない全員制か。その在り方が問われている。

(テレビ西日本)

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