テレビCMやネットなどを見ているとき、買い物をしているとき、なんとなく興味をひかれることはないだろうか。

こうした購買行動をとりたくなるような仕掛けのことを、脳科学の世界では「ニューロマーケティング」という。

ヒトが持つさまざまな特性を利用したテクニックで、なかでも五感はこの仕掛けを理解するための第一歩。

その五感の一つ、「嗅覚」もヒトの行動に影響を与えるという。脳機能開発研究の国内第一人者、川島隆太さん、岡田拓也さん、人見徹さんによる著書『欲しがる脳』(扶桑社新書)から、一部抜粋・再編集して紹介する。

嗅覚は潜在意識への案内人

昔からヒトの嗅覚は他の動物と比べて劣ると言われてきました。しかしそれは19世紀以来の神話のようなもので、過小評価に過ぎないということが解剖学や行動実験による最新の知見から明らかになってきています。

実際のところ、ヒトは何千もの匂いを嗅ぎ分けられ、種類によってはネズミやイヌより敏感に反応できるのだそうです (※1)。

嗅覚を除くすべての感覚の情報は、一次感覚皮質に到達する前に必ず視床(ししょう)を通過します。視床で情報の仕分けが行われているようなイメージです。翻せば、嗅覚は視床を介さずに脳(大脳皮質)にダイレクトにつながっている唯一の感覚器ということができます。

嗅覚は生存センサーとしての役割も(画像:イメージ)
嗅覚は生存センサーとしての役割も(画像:イメージ)
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嗅覚のみがこの特異な経路を持つ理由は、腐敗臭や煙といった命に関わる危険を一瞬でも早く察知するための、動物が持つ生存センサーとしての役割です。五感の中で嗅覚だけがこの緊急ルートを持ち、匂いの刺激はダイレクトに大脳の嗅覚野(きゅうかくや)へ運ばれます。

この直結構造ゆえに、匂いはときに瞬時に記憶や感情を呼び起こす力を持つと考えられています。

子どもと大人、どっちの嗅覚が鋭い?

この記憶との結びつきの強さは、嗅覚の発達とも関係がありそうです。