久しぶりに耳に入った音楽から懐かしい記憶が蘇ったり、イントロを聴くだけで曲全体が思い浮かんだり…。
そんな力のある懐かしい音楽は不安を鎮め、癒やしのパワーもあるそうだ。さらに、それはヒトが物を買うときにポジティブな役割を果たすという。
脳機能開発研究の国内第一人者、川島隆太さん、岡田拓也さん、人見徹さんによる著書『欲しがる脳』(扶桑社新書)から、懐かしさをニューロマーケティングの視点から読み解き、どのようにヒトの購買意欲をかきたてているか、一部抜粋・再編集して紹介する。
イントロクイズができる理由
近年は「音楽そのものが記憶の扉を開く鍵になる」メカニズムが詳細に解明されつつあります。
たとえば、学生の頃によく聴いていた音楽を久しぶりに耳にした瞬間、当時の教室の情景や匂いまでもが懐かしさとともに蘇るフラッシュバック体験をしたことはありませんか?

このように耳から当時の情景が鮮やかに蘇るのは、聴覚皮質で抽出されたメロディとリズムが海馬と扁桃体を介して側坐核(そくざかく)を活性化し、報酬感情と自伝的記憶を同時再生するためです。
また、同じメロディを短い音に圧縮して提示しても、元の曲を知る人の90%以上がタイトルを即答できるという実験結果も報告されており、これは音の時間パターンが“符号化(タグ付き)手がかり”として脳に強く刻まれていることを示唆しています(※1)。
いわゆる出だしのたった数音だけでイントロクイズができるのはこれが理由で、わずかなメロディのかけらを耳にするだけで、脳は曲全体とそのときの自身にまつわる情景、つまり昔の感情や記憶を再活性化します。欠けていた最後のピースをはめてジグソーパズルの一枚絵がぱっと現れるイメージでしょうか。