長崎県五島列島の中心に位置する奈留島。人口約1000人の島は、急速に人口減少が進む一方、移住やUターンをする人が増えている。なぜ小さな島に移り住む人がいるのか。島で暮らす人々を取材すると、その魅力が見えてきた。
小さな島に移り住む魅力とは
奈留島の山間に建つ小さな木工店「三兄弟工房」。
その名の通り三兄弟が営んでいて、観光客向けに木のコースターやアクセサリーなどを製作、販売している。
「三兄弟工房」を営むのは、長男の葛島義信さん、次男の広春さん、三男の信広さん。そこに、義信さんの息子・勝幸さんが加わった。
勝幸さんは高校まで島で過ごした後、東京や大阪などの商社での営業マンを経て8年前に奈留島に戻ってきた。
勝幸さんは島の魅力を「奈留の自然、人との関わり方」だと語る。都会だと挨拶もしないが、島の人たちは年齢関係なく話しかける。そこが島の魅力だという。
都会の経験を活かした新たな挑戦
三兄弟の本業は大工だが、最近依頼される仕事は解体やリフォームがほとんどだ。「大工だけで生計を立てるのは難しい」と、工房を立ち上げた。
勝幸さんの父・義信さんは、「帰って来ても仕事がない」と、最初は勝幸さんが帰ってくる事に反対だった。
しかし島に戻った後、アクセサリーの製造・販売を行う勝幸さんを見るうちに「自分たちの年代で考えられないような新しい作品を作ってもらえれば」と思うようになった。
商社の営業マンだった勝幸さんは、これまでの経験を生かして物産展などで自社の商品を積極的にセールスしている。
販路は徐々に広がっていて、県外から継続した発注を受けるようになっている。
「奈留島」いいところだよ
奈留島は、長崎港からフェリーで4時間。
五島市福江港を経由する、船を乗り継がないと行けない“二次離島”だ。
世界遺産の構成資産のひとつ「江上天主堂」があり、築100年を超える木造建築の素朴な教会は島の観光スポットの一つだ。
歌手のユーミンこと荒井由実さんが奈留高校に愛唱歌を贈ったことで、全国的に知られるようになった。
かつてはまき網漁業で栄え、昭和30年代には1万人近い島民が暮らしていたが、2025年の人口は2000人を割った。路線バスも2023年に廃止された。
決して便利とは言えないが、IターンやUターン者はここ10年で88人に上っていて、じわりと増えてきている。
みんなが語る「島の魅力」
島で居酒屋を営む水野孝史さん・さくらさん夫婦は、県外からの移住者だ。
夫の孝史さんは広島出身だが、旅行で訪れた奈留島にほれ込み移住を決意。漁協で働いたのち2023年、空き店舗を活用して「居酒屋 & Bar またたび」をオープンさせた。
水野さんは奈留島で実際に暮らしてみて、不便さはあまり感じていないという。「もちろんないモノは多いんだけど、ないといけないモノってそんなに多くないのかな」と語る。
水野さんの店は、島の人や帰省した人、観光客が集い、島の魅力を再確認する場にもなっている。
島に住む家族と一緒に店を訪れた帰省客は「島にいるときはそんなに星がきれいだと思わなかった。いつかは帰ってきて実家で一緒に過ごしたい」と話した。
水野さん夫婦はいま、島の特色を生かした新事業を計画している。クラフトビールの醸造所を作って、奈留島オリジナルのクラフトビールを作りたいと考えているのだ。
すでに静岡県で醸造の研修を受け、目指すは海藻や貝エキス、果物など「島の豊かな食材」を使った「オリジナルのクラフトビール」だ。
水野さんはビール作りの他に、ゲストハウスを作ることも計画している。奈留島は福江港から日帰りで来る人が多いため、宿泊できる環境づくりが必要だと考えたのだ。
島を盛り上げたい若者たち
島を盛り上げるためにアイデアを出し合う移住者や若手島民は、水野さんだけではない。
20代から40代の島民や移住者66人が集まり、島を活性化し次世代のリーダーを育てようと、町おこし団体「HATA-AGE(ハタアゲ)」が2018年に結成された。
移住し在宅で仕事をするイラストレーター、島に赴任してきた消防士や教師、医療関係者など様々な業種の若者が集まり、島を盛り上げるためのアイデアを出し合っている。
島民と島外の人がサンタクロースの衣装を着て交流するチャリティーイベントで江上天主堂の保全のため寄付を募ったり、漂着ごみを回収する「ブルーサンタ」などを企画したりして、島内外の人たちの交流を大切にしてきた。
水野さんもメンバーの一人た。「みんな別々の仕事をしていて、年代も違っていて協力しあえる面白さがある。一人ではできないので色んな人達の協力・アイデアを得ながら作っていきたい」と話す。
「三兄弟工房」の勝幸さんも「HATA-AGE」のメンバーだ。「島外の人が来てくれることで島が活性化していく未来も可能性としてはある。出会いを大切にして自分が関わった人が島に移住してくれたりして続けば一番いい方向にいくのかな」と、新たな希望を見出している。
新しいアイデアが紡ぐ島の未来
若い世代の活動は、島にいる人たちにいい刺激となっている。
「三兄弟工房」の次男・広春さんは、現在、塩づくりの研究と製造に力を入れ、販売を始めた。
奈留島のきれいな海水で作る塩は甘みがあり、リピーターも少しずつ増えてきている。
「奈留島に帰ってきても仕事はある。島で続けていける仕事を残せたら」と広春さんは願う。
個人個人ではなく島が一つのチームとなって、この島に残れるようなアイデアをみんなで出し合う。人と人とのつながりを力に、愛する島で生きていくための小さなチャレンジが続いている。
(テレビ長崎)
