さて、小林りんさんインタビュー後編です。

前編でも十分、小林さんのバイタリティに圧倒されますが、後編ではまた別の顔を見せてくれます。ご自身の“ワークライフ・アンバランス”からどう脱却したのか、そして女性活躍のために必要なこととは?ここでも変革のために「行動する」小林さんならではの視点に溢れています。

【前編】「他人の敷いたレールの上を走るな」社会を切り拓く"共感力・感謝力・楽観力"とは 小林りんさんインタビュー

女性たちよ、“ガラスの天井”がない環境を目指せ!

佐々木:
日本ではダイバーシティー推進も説かれる一方で、ジェンダー・ギャップ指数は下がっています。(2019年は世界153カ国中121位。世界経済フォーラム発表)これから社会に出る女性たちを勇気付けるために何かアドバイスはありますか。

小林さん:
実はですね、「ガラスの天井に頭をぶつけ続けて失望するくらいなら起業した方がいいのでは」と私は事あるたびに提唱しているんです。

佐々木:
これはまたクリエイティビティーに溢れた提案ですね(笑)。

小林さん:
もし、ガラスの天井に頭をぶつけてものすごくストレスを抱える女性がいるのだとしたら、そこに割くエネルギーと能力を注げば起業できてしまうと思うんです。もちろん自ら起業するだけでなく、他の人が作ったガラスの天井が無さそうな組織に転職するのだっていいと思います。その効果は社会にもいい影響を与えると思っているんです。

「ガラスの天井に頭をぶつけるくらいなら起業した方がいい」と小林りんさん
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小林さん:
自分自身がトップとして働きやすい環境を作れるということもあるし、そこに集まってくる人にとっても「働きやすさ」が体現されていくことになりますよね。女性だけではなくて、介護をしながら働く男性や何かしら制約を抱えて働く人にとっても、それぞれのワークライフバランスを追求できると思うんです。

佐々木:
確かに、起業をしていく女性の数が増えていくだけで社会的なインパクトはありますよね。

小林さん:
ISAKも職員の8割は女性で、教員の6割が女性です。自然とそうなったんですけどね。そういう組織で何が起きるかというと、教職員にやたら子どもが多いんですよ。しかも、学校内に自然にベビーがいたりして、先日もちょっと教室を覗いたら男性教員がミルクをあげながら授業をしていて、生徒も普通に授業を受けているんです(笑)。いつの間にかカフェテリアにベビーチェアが備品として置かれていましたしね。

佐々木:
先生たちにも、「先生」以外の人生があることを生徒たちも自然と知るわけですね。

ISAKがある軽井沢はまもなく秋の装いへ(写真提供:ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン)

小林さん:
未来を担う女性たちには「ガラスの天井がそもそもない」、あるいは「あったとしても突き破れそうな薄め」の環境を選ぶことをオススメしたいですね(笑)。自分が起業しないとしても、スタートアップの小さなベンチャーは増えていて、自分で裁量権をもって仕事することもできますからね。ただ、女性が活躍していくことは素晴らしいことだと思う一方で、権利を振りかざして戦っていくだけでは特段何も得られない気がしているんですよね。

ここから、「誤解を恐れずに言えば」と前置きした上で女性側に求められる努力について語ってくれます。正直なかなか耳の痛い部分もありますが、現状に愚痴を言っているだけでも声高に権利を主張するだけでもなく、小林さんは現実的にどうやってチャンスを掴んでやりたいことを実現するのか、その話の通し方を示してくれます。

小林さんの考える「真の女性活躍」に聞き入る佐々木恭子アナウンサー

佐々木:
主張だけではダメだと?

小林さん:
一方的な主張の押し付けではなくマネジメント側の立場にも立って考えてみると、対話が生まれると思うんですよね。例えば、チームの誰か1人に海外に行かせるチャンスを渡す時に女性に回らないとします。理由を聞いてみると、かつて女性に行かせたら帰国してすぐに退社してしまった…とか、組織には組織なりの合理的な判断や理由があるかもしれないわけです。

それが正しいかどうかは別として一旦は言い分を理解した上で、では実際にマネジメント側が抱く懸念をどうやって払拭していくかを一緒にいろいろな人と考え、対話して自分がやりたいことを提案していくことが有効なのではないかと思います。そしてもう一点、働きかけた相手から譲歩を引き出して機会が与えられたら、「任せてよかった」という結果を出すことも大事だと思っています。結果にコミットすることで周りにもいい影響が伝わっていくんですよね。

佐々木:
相手の言い分が正しくない、理不尽だと感情的にわだかまって諦めるよりエネルギーの使い方が前向きですね。どうしてわかってくれないのかと「戦う」姿勢より、むしろ「対話して引き出す」なのですね。これも結局、多様性とは何かという話に行き着きますねぇ。相手が自分と全く違う考えの時、どう相手の立場に立てるのか。

このようなりんさんの既存の枠にとらわれない発想や生き方は、どなたの影響が大きいのですか?

ひらがなの名前に込められたご両親からのメッセージ

小林さん:
それはもう親でしょうね。小学校1年生の時に名前の由来を聞く宿題ってありましたよね?その時、親に当時、珍しくて古くさいと思っていた「りん」という名前の由来について聞いてみたら、命名書なるものを出してきたんですよ。

そこには(1)世界中どこに行っても発音しやすい(2)ひらがなでつけたのはあなた自身がそこに意味を付与してほしいから(倫理のりんも鈴の音色のりんも、あなたが自分で意味を決めていきなさい)(3)子どもからおばあちゃんになるまで親しみやすい名前、と3つの理由が書かれていたんですね。その時から、自分で考えて自分で決めていく人生なのだと自覚した記憶はあります。

佐々木:
まさに「自分で考えて決めていく」、そのままに生きてこられたのですね。進路に関してはご両親から何か言われたことはあったのですか。

小林さん:
一切ないですね。高校を辞める時も「いいじゃないの、人生は一度きりなんだから好きにしなさい」と。結果的に、悩んで迷ってようやく今にたどり着いてまだ途上ではありますが、誰かが敷いたレールの上を歩んでいるのではなく、自分で人生を歩んでいる感覚はずっとありましたね。たくさん苦労もしましたが(笑)。

名付けの由来の通り、「自分で考えて決める」人生を歩んできた

インタビュー中もそして原稿を書いている今も、「誰かが敷いたレールを歩んでいるのではない」という言葉が私の胸には刺さります。それは私自身が誰かの敷いたレールの呪縛から逃れられないということではありません。むしろ多様性や自分で自分の道を選択して生きる価値を感じながらも、つい我が子のことになると“良かれと思って”自分の信念を再生産し、知らず知らずレールから脱線しないよう心のどこかで祈っている、親としての自分に突きつけられるのです。

東京大学卒業、外資系投資銀行をはじめとする4つの職歴、そして、スタンフォード大学修士号と華麗なるキャリアの小林りんさん。「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2015大賞」を受賞するなどスーパーウーマンであることに間違いありませんが、ただ、ご自身のワークライフバランスには悩みも尽きなかったようです。そして、それもまた「変革」のための行動があるのです。

ワークライフバランスは「朝型集中メール」で…その効果は?

佐々木:
私自身、人の親になってみて「自分で考えて自分で決めろ」とは言えても、高校を辞める時に「好きにしなさい」と言えるかどうかは自信がないですね(笑)…ご両親の器の大きさを感じます。小林さんご自身も2児の母でいらっしゃいますが、どんなワークライフバランスなのですか?

小林さん:
これがですね、2012年までは全く両立できなかったんですよ(笑)。

佐々木:
ISAKの立ち上げに奔走されていた頃ですね?

小林さん:
はい。出産してすぐに入院中のベッドでPCを出してバリバリ仕事していて。周りには本当に産んだの?なんて冗談を言われるくらいで。夜、夫が仕事から帰ってくると、待ってましたとばかりに子どもを預けて会議に出かけ、土日はあなたよろしくね〜なんて調子で仕事をしていたら、これが赤ちゃんの頃はまだよかったのですが、2歳にもなると私の後追いをしたり出かける時に泣いたりと、段々とお母さんが求められる役割も大きくなってきて。

佐々木:
わかります。ベビーの頃の「お世話」に比べると年々、母の出番が増えていきますよね。

小林さん:
2012年に、大学時代からの付き合いの夫に「あなたは妻としては自由に好きに生きてくれて構わない。でも母親としては別だ」と指摘されて、自分でも薄々気づいていて気づかないフリをしていたのがそうもいかなくなって(笑)。きっぱりと18時以降は仕事をしない、家のことしかしないと決めたんです。

出産後のベッドでも続けた仕事は朝型、夜は家族の時間に

佐々木:
大転換ですね。それはご主人も共にですか?

小林さん:
そうですね。夫婦2人で18時以降は一緒に子どもたちと家族団欒しながらご飯を食べ、お風呂に入り、読み聞かせをして21時には寝る。家事の分担では洗濯は夫、ご飯は私、掃除は週に1回外の方にお願いするということで何とか回っています。あと、長期出張の時は、祖父母の出番ですね(笑)。

佐々木:
理想的ですねぇ…。早寝早起きですか?

小林さん:
朝4時半から6時半は集中して仕事します。そのあと朝食を済ませてひと度家を出ると、ミーティング続きで全く隙間がないことが多いので、この時間にしかメールができません。時間を決めることで良かったのは、まず返事が短くなったこと(笑)。

以前、夜中までメールしていると、ああでもないこうでもないと迷ったり長くなったりするのですが、時間がないから要点だけになって端的。あとは、2時間しかないので自分が処理できないものは徹底して人に任せられるようになりました。重要な書類もメールも思い切って任せる。そうするとみんなやってくれるんです。時に大きな失敗もありますが(笑)、その人はもう2度と同じミスはしなくなる。

佐々木:
任された方も貢献感が上がりますね。お子さんには人生の何が大事だと教えていらっしゃるんですか。

小林さん:
今、5年生と1年生ですが、ISAKのヴィジョンと同じ(1)問いを立てる力(2)多様性を活かす力(3)困難に挑む力、家庭ではそのままミニチュアバージョンになっています。自分は何者で何をしたいのか、内向きな問いを立てていくためにも子どもが好きなことに没頭する時間が大事だと思っています。

だから習い事も親からさせているものは1つもないんですよね。その子が本当にやりたいと思っているのかどうか、よく話をして決めます。だから、私自身がこんな仕事をしている割には、英語も上の子の場合は5歳になって本人がやりたいと言うまではさせなかったくらいです。

佐々木:
5歳で自分から「英語習いたい」と言えるのもすごいですが…?

小林さん:
それもきっかけがあったんですね。当時、息子は宇宙が大好きで、ある時に番組でスペースシャトルの特集を見たら…気づいたようなんです、どの国の人も英語を喋っているって!日本人もアメリカ人もロシア人もみんな英語でコミュニケーションしていて、僕も英語を喋りたい!と。

娘は全く別の個性で、とにかく踊っているか歌っているのが大好き。彼女の場合は、英語もただ単にかっこいいダンスやミュージカルのYouTubeを見ていたらそのシリーズが海外のものだった、というのが導入でした(笑)。本当に好きなことをやって輝いている姿が、1週間とか1年の中で少しでも長ければいいなと思っています。どんな子どもにも、もちろん凸凹はあって当たり前なので、漢字を書くのや本を読むのが好きではないということより、子どものワクワクがどこにあるのかを大事に考えたいですね。

佐々木:
お子さんの学校の関わりでは、どんな声がけを意識されていますか。

子どもたちには好きなことに夢中になって輝いていてほしい

小林さん:
多様性の理解、多面的なものの見方の根幹にあることって、日々の問いかけだと思うんですね。お友達と何かあったり、先生に怒られて帰ってきたといった時に、「相手から見たらどう思ったかな?」と。自分から見えている風景と、相手から見えている風景のたぶん中間くらいに真実があって、その瞬間は本人が怒ったり納得がいかないことでも、向こう側から見たら自分自身のこういう言動が傷つけちゃったかもしれないな、と気づけることが大事なんだと思います。

佐々木:
どこにいても、多様性の理解は日々練習を積み重ねていけるということでもありますね!

小林さん:
はい。日本の中にも多様性を学ぶチャンスはいくらでもあり、自分の子どもを否定することだけも守ることだけもせずに、人は自分のものの見方以外の視点を教えてくれている存在なんだと伝えていきたいですね。

ISAK図書館での生徒たち。対話によって多様性への理解を深める(写真提供:ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン)

インタビューを終えて

「意味は自分でつけなさい」と与えられた、ひらがなの「りん」の名前。前述の通り「誰かが敷いたレールの上を歩んでいたことはなく、自分で人生を歩んでいる感覚がずっとありました」と言い切れるしなやかさと強靭さに、書きながら心震えるものがありました。

おそらく、世間的な価値や見られ方ではなく、「内向きな問い」と真摯に自身で対話されてきたからこそなのでしょう。

1つの答えを求めて解き方を教わる時代ではなく、そもそも何を問いとして立てるのか、どうアプローチして解決を模索するのか、それ自体、自分の頭で考えて行動していくことが求められる時代です。やりたいことを実現するためには「戦う」コミュニケーションではなく、相手目線に立って自分と相手とのコンフォートゾーンをどう見つけていくか ――自分自身との対話力、相手との対話力、鍵はそのあたりにありそうです。

さて、小林りんさんの「朝型時間を決めて仕事する生活」、早速マネをしてみたらいつもよりスピーディーに原稿を仕上げることができましたよ。私にも嬉しい副産物を、ありがとうございました。

社会を変革するリーダーは、必ずしも政治の道だけとは限りません。りんさんのメッセージはおそらく、「誰もがそれぞれの場で社会のチェンジメーカーになれる」ことなのだと思います。そのためには文句を言う人、気づいていて何もしない人ではなく、「行動できる」人であれ、ということに尽きるのかもしれません。

ふとため息をつきたくなる瞬間に、“今できるベストなことは?”と自分に問うてみることにします。

佐々木恭子アナウンサー(左)と小林りんさん(右)

【インタビュー・執筆:フジテレビ アナウンサー 佐々木恭子】