「道路に人が倒れている」6月20日早朝、警察に通報が入った。現場は仙台市宮城野区の国道45号線。早朝でも車通りの多い幹線道路だ。倒れていた68歳の女性は、脳挫傷により現場で死亡が確認された。交差点から100m以上にわたって引きずられた跡が残され、警察はひき逃げ事件として捜査を開始。同日夜、山形県天童市のトラック運転手・魚住隆浩容疑者(58)を逮捕した。魚住容疑者は「自転車とぶつかった記憶はない」と話しているという。一方で、現場から10キロ離れた路上で車体下部に挟まった自転車を自ら取り除いて配送先へ向かうなど、不可解な行動も判明した。一体、何が起きていたのか、時系列で追っていく。

早朝に起きた“事件”
20日午前5時25分ごろ。宮城野区原町6丁目にある坂下交差点の自転車通行帯を、パートの女性(68)が乗った自転車が通過しようとしていた。そのとき、同じ方向から来た鉄くずなどを載せた大型トラックが交差点を左折。自転車はトラックの左前の側面部に衝突し、巻き込まれる形で車体の下へと引きずり込まれた。

警察によると、女性は坂下交差点から約100m引きずられ、トラックから“解放”された。事故の第一報は、倒れた女性を見つけた人からだった。現場には擦り切れたスニーカーやバッグが点々と落ちていた。交差点や道路にブレーキ痕は残されていなかったが、交差点を左折した直後からトラックが2車線ある道路を大きく蛇行するように走った跡がくっきりと残されていた。

“赤いトラック”を追う
通報した人によると、逃げたのは「赤い大型トラック」だったという。警察が容疑者の逮捕後に公開した車両は荷台が黒いものの、車体下部は赤く、近くでみると「赤いトラック」と形容しても違和感のないものだった。(※車種はトレーラーですが、警察の発表経緯などを受け、記事内ではトラックと表記を統一しています)

また、現場から約1.3キロ離れた45号線沿いに設置された防犯カメラには、事故から約2分後、このトラックとみられる映像が残っていた。他の乗用車よりもゆっくりと進み、違和感があるようにも見える。

“最短コース”外れた理由
当時、魚住容疑者が向かっていたのは多賀城市の配送先だった。防犯カメラの場所から多賀城市までは45号線をそのまま進むのが一般的だ。だが、魚住容疑者のトラックはなぜか途中で右折。宮城野区蒲生へ向かい、衝突現場から10キロ離れた路上で、車体下部に挟まれていた自転車を取り除いたという。警察によると、魚住容疑者は「ガタガタ音がして確認した」と話し、異音に気づいたため停車したとしている。

当然だが、自転車は道路に落ちているようなものではない。変形した自転車にも血痕など事故の痕跡はあったはずだ。誰かをはねて事故を起こした可能性には思い至らなかったのだろうか。魚住容疑者はその後、取り除いた自転車を放置し、配送先に向かったとみられる。
配送先にいた容疑者
警察が運送会社を割り出し、多賀城市の配送先を訪問すると、魚住容疑者がいて、事故を起こしたトラックもあったという。警察は20日午前中に警察署へ任意同行を求め、事情を聴取。容疑が固まったため、20日午後7時ごろ、魚住容疑者を過失運転致死とひき逃げなどの容疑で逮捕した。

魚住容疑者は事故を起こしたことを認め、ひき逃げについても「現場から立ち去ったので、そう思われても仕方がないと思います」と話しているという。だが、事故当時にぶつかった記憶はないとして、「気づかなかった」とも主張している。
痕跡と供述の矛盾 追及へ
翌21日の送検時、報道機関のカメラの前には、隠れるように背中を丸めた魚住容疑者の姿があった。

現場に残された蛇行の跡は何だったのか。他の車よりゆっくり走っていた理由は何なのか。遠回りをしてまで自転車を取り除いたのはなぜなのか。
警察はトラックのドライブレコーダーを解析するなどして、容疑者の供述からは分からない「事実」を追求する方針だ。