「ちょっと乗せていって」が通じる、人口1000人あまりの島。
これまで善意で成り立ってきた近所の助け合いを持続可能な「移動手段」にするため、広島の離島・下蒲刈島で新しい交通サービスが始まろうとしている。
住民ドライバーの登録数がカギ
呉市の南東に位置し、安芸灘大橋で本州とつながる下蒲刈島。

人口は1,106人、35年前の約3割にまで減少した。平均年齢も2025年3月時点で63.2歳と、県内でも少子高齢化が特に進んでいる地域だ。
島内では生活バスが運行しているが、便数や停留所が限られていて、移動手段の確保が大きな課題となっている。
こうした背景の中、広島県は県内で初めてマイカーを活用した公共ライドシェア「ノッカル下蒲刈」を7月にスタートさせる。

「ノッカル下蒲刈」は、まさにマイカー移動する住民の車にお金を払って“乗っかる”仕組み。利用したい日の前日までに電話かLINEで乗車場所と時間を予約し、料金は1人片道300円。事前に購入したチケットで支払う。
乗り降りは、既存のバス停に加え、アンケートで設定された島内50か所に対応。タクシーのようにどこでもいけるわけではないが、バスが入りにくい細道にも対応できる柔軟さが魅力である。
一方で、利用希望が多くても住民ドライバーがいないと成り立たない。どれほどドライバーを確保できるかがカギとなりそうだ。
ドライバーとなる住民は登録制。80歳未満でスマホを持つことなどが条件で、事前に講習を受け、運行当日にはアルコールチェックも実施する。運賃のうち100円がドライバーの報酬となり、事故時には保険も適用される。
新たな移動手段「今後の波及に期待」
制度スタートを前に、県の職員が島民に向けた説明会を開いた。

「できるとき、できる範囲で支え合うという考え方で仕組みを作りました」
高齢女性が自宅近くから車に“乗っかり”、目的地で降車・支払いをするイメージ映像を流し、制度への理解を深めた。
それに対し、参加住民からは「人情的に縦横のつながりができていて、金をもらわずに連れて行ってあげる人も多いんですよ」といった声も。
すでに根付いている“助け合い”の生活。日常の善意を制度化することへの抵抗感が垣間見える。

それでも、「万一の事故を考えると不安もある」「移動手段がないことは心配」と話す住民もいて、制度への期待は高い。

県公共交通政策課・水本全彦課長は「まずはしっかりと地域の移動手段を確保すること。そして、得られた成果や知見をほかの市町にも波及させていきたい」と話す。
試験運行は7月5日から2026年1月末まで行い、本格導入に向けての課題や改善点を探る。
「できるとき、できる範囲で支え合う」――小さな島の挑戦が、地域交通の未来を変えるヒントになるか注目される。
(テレビ新広島)