イスラエルとイランの攻撃の応酬で、市場は大きく揺さぶられ、投資家のリスク回避姿勢が強まっている。今週は16日からG7サミットが開催されるほか、日米の中央銀行が相次いで金融政策を決める会合を開く予定で、アメリカの高関税措置や政策金利をめぐる議論の行方が注目される。

中東情勢悪化で株安・原油高

中東情勢緊迫化への警戒感から、13日の東京株式市場は、日経平均株価が一時600円以上値下がりした。

6月13日、日経平均は一時600円以上値下がりした
6月13日、日経平均は一時600円以上値下がりした
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ニューヨーク市場でも動揺が広がり、13日のダウ平均は下げ幅が800ドルを超える場面があった。原油先物相場は、需給緩和が意識されてきたこれまでの流れから一転し、供給が細るとの懸念が強まったことで急騰し、WTI先物は一時14%高の1バレル77ドル台後半まで値を上げ、約5か月ぶりの高値をつけた。

一方、相対的に安全資産とされる金の先物には買いが広がり、一時1トロイオンス3468ドルと、4月下旬以来の高い水準となった。

関税めぐる日米間合意は

主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、16日、カナダで開幕する。ウクライナや緊迫化する中東情勢、トランプ政権の高関税政策で不確実性が高まる世界経済などについて議論される見通しだ。「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ大統領が対面で参加するなか、結束を打ち出せるかが大きなポイントとなるが、「首脳宣言のとりまとめは難しい」との見方も広がっている。

G7に合わせ、日米首脳会談へ
G7に合わせ、日米首脳会談へ

サミットにあわせ、石破首相は、トランプ大統領と首脳会談を行う予定だ。貿易の拡大や非関税措置、経済安全保障面での協力などについてこれまで積み重ねてきた交渉を踏まえ、関税措置をめぐり一定の合意が得られるかが焦点となる。

アメリカ年内利下げの回数は

こうしたなか、FRB(アメリカ準備制度理事会)は、17日~18日にFOMC(公開市場委員会)を開く。トランプ大統領が景気を刺激する早期利下げを求めているのに対し、パウエル議長は、関税措置による景気や物価動向への影響を見極める必要があるとして、利下げに慎重な姿勢を崩していない。

先週発表された5月の消費者物価指数などの物価指標が全般的に市場予想を下回ったことで、インフレ再燃への懸念はいったん薄れたが、原油先物相場の大幅上昇を受け、エネルギー価格の上昇が物価押し上げにつながるとの観測が出ている。ミシガン大学が13日発表した6月のアメリカ消費者態度指数の速報値は60.5と、市場予想を大幅に上回り、前月の52.2から改善した一方、1年先の予想インフレ率は5.1%と、前月の6.6%からは低下したものの、依然として高水準だった。

金利先物の値動きから市場が織り込む政策金利変更の可能性を算出する「フェドウォッチ」では、金利の据え置き確率が9割を超えていて、4会合連続での政策金利維持を決める公算が大きい。

焦点は、同時に公表されるFOMCメンバーによる政策金利見通し(ドットチャート)だ。前回は、年内2回の利下げを見込む内容だったが、今回はどうなるかがこの先の利下げを占う上での注目点となる。

トランプ大統領は、5月の消費者物価指数の伸びが予想より鈍化したことを受け、「1%ポイントの利下げを実施すべき」と主張するなど、利下げ圧力を強めているほか、次期議長について「非常に近い時期に明らかになる」として、異例の早期指名の可能性に言及している。パウエル議長の会見では、こうしたトランプ氏の姿勢について質問が相次ぐことが予想され、パウエル氏が今後の利下げをめぐるスタンスをどう表現するかに、市場の関心が集まる。

日銀は国債買い入れ減額ペースを緩めるか

一方、日銀も、FOMCに先立って、16日~17日に金融政策決定会合を開く。

政策金利は据え置かれるとみられ、国債買い入れの減額ペースを緩めるかが焦点になる見通しだ。日銀は、異次元緩和から正常化へと金融政策の舵を切るなか、2024年8月に国債買い入れの減額を始め、3カ月ごとに買い入れ額を4000億円ずつ減らしてきたが、今回2026年4月以降の減額方針を議論する。市場関係者の間では、減額幅を2000億円程度に半減させるのではとの見方がコンセンサスになりつつある。

世界の債券市場で、トランプ政権の大型減税策などによる財政拡大が材料視され超長期金利が上昇するなか、日本でも、参院選を前にした消費減税などをめぐる議論から財政悪化リスクが潜在的に意識され、特に満期までの期間が30年、40年という超長期の国債の利回りは、4月以降上昇ピッチを強めている。市場では需給悪化への懸念も広がっていて、日銀は保有する国債残高の削減を続けて自由な金利形成を促す姿勢を維持しながら、減額の進め具合を緩めることで市場への配慮を見せる構えだとみられる。

植田総裁の会見では、国債購入の減額についての方針の説明とともに、今後の利上げの時期をめぐる発言が注視される。

日銀・植田総裁の会見(5月1日)
日銀・植田総裁の会見(5月1日)

前回の会合後の5月1日の会見で、植田氏は、「経済・物価見通しが実現していけば、引き続き政策金利を引き上げる」と言明し、従来の方針を維持したが、アメリカの関税措置を含む条件次第で、次の利上げのタイミングは大きく前後するとの認識を示している。

世界経済の不透明な先行き情勢に中東情勢緊迫化という新たな波乱因子が加わるなか、関税措置や金融政策をめぐる注目イベントが続く1週間となる。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員