27日のニューヨーク外国為替市場で、円相場は一時、1ドル=160円台に下落した。160円台をつけるのは政府・日銀が円買い介入に踏み切った2024年7月以来、1年8カ月ぶりだ。
強まる「有事のドル買い」
中東情勢の緊迫化が続くなか、「有事のドル買い」が強まっている。
トランプ大統領は26日、イランのエネルギー施設への軍事攻撃をアメリカ東部時間4月6日まで延期すると表明し、27日までとしていた攻撃の猶予期間を10日間延長したが、28日には、イランへの軍事作戦に参加するため派遣されていたアメリカの強襲揚陸艦「トリポリ」が中東地域に到着した。一方、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が新たな声明でイスラエルへの攻撃を継続すると表明した。
流動性が最も高い基軸通貨であるドルに資金が流入する動きは衰えておらず、原油供給が細るリスクがドル買いを加速させている。27日のニューヨーク取引所でWTI先物価格は、前日に比べ5%あまり高い1バレル=99.64ドルで取引を終え、4日ぶりに100ドル台をつける場面もあった。原油高騰が、エネルギーを輸入に頼る日本の貿易赤字を拡大させるとの見方を背景にした円売りも強い。
アメリカ長期金利の上昇もドルの押し上げ材料だ。原油高によるインフレ懸念などを受け、10年物国債利回りは、27日に4.4%台と8カ月ぶりの高い水準をつけ、上昇傾向を見せている。
CFTC=アメリカ商品先物取引委員会の発表では、先物市場でのヘッジファンドなど非商業部門による対ドルの円売り越し幅は、24日時点で約6万2800枚となった。アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃が始まる前の2月24日時点では約1万枚の買い越しだった。円安・ドル高のさらなる進行を想定し取引している投機筋が一段と増えていることを示す。
3人世帯で年間3万円超の負担増も
円安と原油高のダブルパンチで家計の負担増はどうなるだろうか。 みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では、円相場で1ドル=160円程度の水準が続くとともに、エネルギーや飼料・肥料価格などが前年に比べて30~40%上昇する場合、ガソリン補助金が続くとしても、標準的な3人世帯で年間負担は2~3万円以上増える可能性がある。
輸送や包装材などのコスト増とともに、加工食品も値上がりしていくほか、肉類などの畜産物や、北半球で作付された小麦やコメをはじめとした農作物の価格上昇が段階的にやってくる。電気ガス料金は、LNG=液化天然ガスの高騰が、時間差で6月ごろから反映される見通しだ。物価の優等生とされる卵についても、日本養鶏協会が、年後半以降に値上がりするおそれがあるとしている。2025年2月の消費者物価指数では、伸び率が3年11カ月ぶりに2%を下回り、物価高が一服する傾向が見られたが、円安と原油高で物価上昇が再点火する可能性が高まっている。
実需主導のドル買いを介入で止められるか
心理的節目となる1ドル=160円を突破したことで、円買いの為替介入への警戒感も強まっている。

片山財務相は、160円への下落が近づいていた27日の閣議後の会見で「断固とした措置も含めてしっかりと対応していく」と述べ、「石油関係の事象に引きずられた投機的な動きもみられる」と市場の動きをけん制した。
直近で160円台をつけたのは2024年4月と6〜7月だ。当時は日米の金利差が高止まりするなか、低金利の円を調達して金利が高いドルなどで運用して利ザヤをねらう「円キャリートレード」と呼ばれる取引が活発化していた。160円を突破した後、政府・日銀は、4月から7月にかけてあわせて15兆円規模の円買い介入を実施した。
一方、今回は、有事のドル選好や原油高が背景にあり、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に沿った値動きだとの見方は根強い。実需のドル買いが主導する動きを介入でストップできるのか疑問視する声もあり、介入で一時的に円が上昇しても、次第に効果が希薄化するおそれを指摘する声も上がっている。
中東情勢の緊迫度がエネルギー調達に大きく影響する日本経済の脆弱さが意識されるなか、 円安と原油高の進行が、家計の負担増を一段と強める局面になってきた。今週の円相場は、円買い介入をめぐる当局の動きをにらみながら、さらなる下値を探る展開になりそうだ。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)
