東海テレビニュースONEでは、シリーズで「SNSな人々」をお伝えしています。いまや“社会そのもの”といっていいほど私達をとりまいているSNS。そんな時代を「うまく生きる」ヒントをさまざまな人の声から探ります。
大人も子供もSNSを使うのが当たり前の時代に、SNSの“ない”生活を送る家族がいる。子供たちはスマホがなくても、自ら楽しい遊びを見つけ出し、生き生きとした笑顔を見せる。一家の“ない”生活に密着すると、SNSにとらわれないで、「一つの道具」として、うまく活用するためのヒントがあった。
■子供たちは笑顔に…SNSもスマホも“ない”生活
名古屋市守山区に住む有坂さん一家は、サッカースクールのコーチを務める父、好令さん(40)と、香菜さん(39)の夫婦に、椿紗ちゃん(11)、桜紀ちゃん(9)、日向くん(6)、絃草くん(1歳4カ月)の6人で暮らしている。

有坂さん一家の1日は、卵の収穫から始まる。子供たちが卵を集め、朝食づくりも手伝っている。

朝食を終えると、子供たちは庭にあるトランポリンで飛び跳ねて遊ぶ。

かけっこにブランコと、思い思いに自由な時間を過ごし、楽しそうな笑顔を見せているが、有坂さん一家の生活にはあるものがない。

父親の好令さん:
(子供はスマホを)持っていない。ウチはこれが当たり前だから。テレビ見ない、パソコンとかそういうのも見ないみたいな生活をずっとしているから。
有坂家のリビングにはテレビや常設のパソコンはなく、11歳になった長女、椿紗ちゃんも、スマホを持っていないという。
長女の椿紗ちゃん:
(SNSのアカウントも)持っていない。別にそんなに欲しいとはあんまり思わない。
■「不便なほうが考える」…自分で見つける“楽しさ”
2024年11月にモバイル社会研究所が行った、小中学生のスマホ調査によると、小学6年生の実に6割以上がスマホを持っているという。

そんな時代に、あえて持たない選択をする狙いは何なのか。
有坂家の子供たちは「ホームスクール」と呼ばれる、学校へは通わず自宅を拠点にした教育を選択している。カリキュラムや決まった時間割はない。

母親の香菜さん:
彼らのやる気に任せようと思って。そしたら“静の時間”みたいな感じで、いきなりドリル開いてやり始めたりとか。やるんですよ、やりたくなったら。
父親の好令さんは大学時代、サッカーをしながら南米や東南アジアを回った経験を持つ。

父親の好令さん:
そこで見た現地の人の「心の豊かさ」。お金は絶対、日本人のほうが持っていると思うんだけど、そういう物質的な豊かさより、心の豊かさにすごく感動して。
用意されたものでなく、ボール1個からいかに楽しみを見出すか、これが“ない”生活の原点だ。
父親の好令さん:
スマホって、すぐ簡単に快楽を得られちゃうから。それがない環境を作ってあげれば、自分で楽しいことを見つけて、できるんだと思います。

母親の香菜さん:
「不便なほうが絶対いろいろ考える」っていうか。自分が退屈な空いた時間に、「じゃあ何しようかな」とか、いろいろ自分と向き合う時間って、すごくしんどいと思うんですね。でもそうすることで、自分の創作意欲が湧いたり、いろんなこと考えたり。画面に逃げずに、スクリーンに逃げずに。
■遊び方もルールも自分たちで…“ない”環境で育つ「主体性」
午後3時半ごろ、有坂家の庭に、学校帰りの子供たちが集まってきた。好令さんとともに、自転車で2キロほど離れた公園に向かう。

好令さんが運営するアウトドアサークル「放課後冒険クラブ」では、5歳から13歳までのおよそ30人が、キャンプやスキー、登山など季節に応じたさまざまな遊びを体験している。

「放課後冒険クラブ」に通う小学4年の女の子:
(普段)ケータイはLINEとかYouTubeとか見るのと、インスタは消されました、見過ぎて(お母さんに)消された。冒険クラブのときはそんなに使わない。
「冒険クラブ」の子供たちも、活動中はSNSやスマホから解き放たれて遊ぶ。

子供たちは、遊び方やルールを自分たちで考えた「水上アスレチック」や、手も足も使える「水上サッカー&バスケ」を始めた。

Q.いま考えたんですか?
椿紗ちゃん:
うん、テキトーだよ。
Q.毎回こうやってルール考えているんですか?
椿紗ちゃん:
そう。でも、誰が決めるとかじゃない。みんなやっている。
父親の好令さん:
冒険クラブって、子供たちからすれば遊んでいるだけなんだけど、遊びの中にすごいいろんな要素があって、こうやって戦略を立てたりとか、みんなで考えて、遊びの中で「どうやったら勝てるかな」とか。そういう「考える力」も、すごいつくだろうし。

あふれる情報に受け身になりがちなSNSやゲームではなく、“ない”環境に身を置くことで、主体性が身につくという。
脳科学の専門家も、こうした「遊び」が子供たちの成長に大切だと指摘する。

東北大学の細田千尋准教授:
実は「遊びっていうのはイコール学びである」っていうことは研究上、多くの人たちが言っています。外で遊ぶっていうことは、いろんな状況を把握することが必要なわけです。社会性だったり、クリエイティビティだったりが育つのは、実はそういう“何もない”ところで。
■実はYouTubeやインスタも“ある”…SNSを「何のために使うか」
SNSなどがない生活を送る有坂家である日、長女の椿紗ちゃんが、庭でバイオリンを演奏していた。

演奏する椿紗ちゃんのそばには、ないはずのノートパソコンがある。椿紗ちゃんはYouTubeをきっかけにバイオリンを始めた。

長女の椿紗ちゃん:
(見ていた動画は)「カロリーナ・プロツェンコ」(ウクライナ人バイオリニスト)。7歳の時にYouTubeを見て、ストリートパフォーマンス、バスキング(路上ライブ)して、アメリカでバイオリンを弾いていて、それを見てすごいかっこいいなと思って、やろうと思って。

有坂家では「親と一緒に見る」、「調べものなど目的をもって見る」という条件つきであれば、「YouTubeを見てもOK」にしている。

そして、椿紗ちゃんのバイオリンの演奏動画などを発信する、インスタのアカウントもある。
憧れのバイオリニストと同じように、椿紗ちゃんも名古屋の街でストリートパフォーマンスを行っている。

その様子を好令さんがインスタグラムやYouTubeで投稿したところ、2万5千回以上の再生を記録した動画もある。
父親の好令さん:
(SNSを)ただ受動的に見る使い方はしてないんだけど、(椿紗ちゃんは)好きなバイオリンのYouTuberがいるから、その子の動画を見たりとかしているし。憧れているから、そういうのは、僕は全然制限はしてない。

SNSにとらわれない。だからといって、全てを制限することもしない。それが有坂家の“ない”生活だ。

母親の香菜さん:
例えば英語を早い時から、身に付けて、「それで何がしたいのか」っていうことが重要じゃないですか。スマホとかIT媒体も、それを使って結局何をしたいのか。自分の軸をしっかり持って付き合うのもそうだし、自分の軸がぶれちゃうと思うんだったら、もう「見ない」
2025年5月29日放送
(東海テレビ)