収穫前のワカメと海面に浮かんだ油膜
収穫前のワカメと海面に浮かんだ油膜
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2026年3月25日、宮城県の塩釜港で、宮城海上保安部の巡視船から大量の重油が流出するという事故が発生した。春の最盛期を迎えるはずだったワカメやノリの養殖場を襲ったのは、海の守り手であるはずの海上保安部が引き起こしてしまった“人災”だった。
海の街の経済を揺るがす甚大な被害。豊かな海と漁師たちが育んできた、宮城の養殖漁業のこれからを探る。

流出量は当初発表の15倍 痛恨の人災

巡視船「ざおう」
巡視船「ざおう」

事故の引き金となったのは、塩釜港に停泊していた巡視船「ざおう」における燃料移送作業のミスだった。3月25日午前5時50分ごろ、船内の発電機を稼働させるためタンク間で重油を移送していた際、自動で停止するはずのポンプが稼働し続け、あふれ出した重油が海面へと流れ出した。

当初、宮城海上保安部は流出量を「1000リットル以上」と説明していたが、その後の調査で、実際に流出した量はその15倍に相当する最大「1万5000リットル」に達する可能性があることが、4月3日に発表された。

重油流出の原因調査
重油流出の原因調査

さらに重大なのは、組織としての管理体制に欠陥があった疑いだ。
巡視船には常時乗組員が配置され、1日に複数回の定期巡回が義務付けられているが、今回の事故ではこの巡回が形骸化していた可能性が指摘されている。

第二管区海上保安本部は、海洋汚染防止法違反の疑いも視野に入れ、機械的な不具合のみならず、現場の運用実態についても厳しい調査を進めている。

豊漁が見込まれていた養殖漁業への大打撃

流出後、影響を確かめるためにワカメを引き揚げる漁師
流出後、影響を確かめるためにワカメを引き揚げる漁師

重油の流出は、塩釜港を中心に直径数キロ圏内の養殖施設を直撃した。特に被害が深刻なのが、収穫のピークを目前に控えていたワカメとコンブ、そしてノリである。

春が訪れ、本来であれば浜が最も活気づく時期だが、重油の臭いと油膜は海藻にまとわりついてしまっていた。県漁協塩釜地区支所と塩釜市漁協は、食の安全とブランド維持の観点から、被害が確認されたワカメとコンブの全量廃棄という苦渋の決断を余儀なくされた。廃棄される量はあわせて1700トン以上に上る。

食卓に並ぶためではなく、被害額を計算するために引き揚げられたワカメ
食卓に並ぶためではなく、被害額を計算するために引き揚げられたワカメ

塩釜市によると、今年のワカメは例年にないほど生育が良く、市場価格も1キロあたり700円から750円と、例年の300円前後を大きく上回る高値が期待されていたという。
4月3日から始まった引き揚げ作業は、出荷のためではなく、被害額を計算するため重さを測る必要があるためで、そのまま廃棄場へと運ばれていく。

この引き揚げと廃棄作業は5月中旬まで続く見込みで、漁港には長期間にわたって喪失感が漂うだろう。

全国有数のノリ養殖場を持つ七ヶ浜 被害は資材にも

全国有数のノリの産地、七ヶ浜町
全国有数のノリの産地、七ヶ浜町

被害の波紋は、全国有数のノリ養殖場を持つ七ヶ浜町にも及んだ。
直接的な重油の流入こそ確認されなかったものの、ノリの加工に不可欠な海水を汲み上げる施設付近に油が漂着。さらに、油が付着した漁船が漁場を出入りしたことで、汚染の疑いを完全に払拭することが困難となった。

宮城県漁協七ヶ浜支所は、「これまで築き上げてきた七ヶ浜ノリのブランドを傷つけるわけにはいかない」と、2200万枚に及ぶノリの全量廃棄と生産停止という判断を断腸の思いで下した。
被害額は平均入札価格で換算すると、3億円に上る可能性があるという。

乾ノリに加工されたうえで処分されてしまう
乾ノリに加工されたうえで処分されてしまう

4月に入り、廃棄する予定のノリを乾(ほし)ノリへと加工する作業が始まった。
食べるためではなく、焼却処分しやすくするためという。そして4月13日から一般廃棄物、つまり家庭ゴミと同様の焼却処分が始まった。生産者にとってあまりに酷な作業だ。

県漁協七ヶ浜支所 鈴木祥支所長
県漁協七ヶ浜支所 鈴木祥支所長

県漁協七ヶ浜支所 鈴木祥支所長:
焼却処分になることは憤り、悲しい気持ちでいっぱい。

七ヶ浜町の不幸は、これだけにとどまらなかった。

破損してしまった養殖資材
破損してしまった養殖資材

ノリの廃棄作業を進めていく中で、引き揚げた養殖資材の実に4分の1に破損が生じていたのだ。
例年であれば、ノリの収穫を終えたいかだから資材を回収していく。しかし今シーズンは重油の対応に追われている間にノリが育ち過ぎ、その重さで網が破損してしまったという。

県漁協は破損が発覚したあとに資材を発注したが、来シーズン用の養殖に間に合わなければ、いかだの台数を減らさざるを得なくなり、生産量や収入に直結する問題となる。

厳しい経営状況の漁師を追い詰める甚大な被害

要望書を提出
要望書を提出

現在、漁業の現場は燃料費や資材価格の高騰により、極めて厳しい経営状況にある。漁業関係者は、「浮き玉やロープといった消耗品一つをとっても価格が上昇している。全面的な補償がなされなければ、再起を諦め廃業に追い込まれる漁業者が続出しかねない」と話す。

塩釜市の佐藤市長や七ヶ浜町の寺澤町長らは31日、宮城県の村井嘉浩知事に対し、国への強力な賠償請求と来シーズンに向けた道具購入資金の支援を求める要望書を提出した。

村井嘉浩知事
村井嘉浩知事

これに対し村井知事は、被害状況の正確な把握と国への賠償請求を支援する方針を示し、4月1日から相談窓口を設置した。また、売上高が10パーセント以上減少した中小事業者への融資制度も4月10日から開始されている。

宮城海上保安部は「誠心誠意、金銭で補償する」との姿勢を示しているが、生育が過去最高ともいえた今年の期待利益や、風評被害によるブランド価値の毀損、さらには廃棄作業に費やされる膨大な労力などは、目に見えない損失だ。

国と県が足並みを揃え、実効性ある補償と支援策を提示できるか。豊かな恵みと漁師たちの手によってに支えられてきた宮城の海はいま、正念場を迎えている。

仙台放送
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