勝利への情熱を胸に

沖縄県糸満市の海岸に夕日が差し込む頃、大学生の有銘心優(ありめ・みゆ)さんは、ストップウォッチとカメラを手にしていた。西村・中村・新島の三つの集落が船に乗り競い合う伝統行事「糸満ハーレー」。中村のマネージャーを務める彼女の一日は、慌ただしくも充実していた。中村は2005年以来、総合優勝から遠ざかっていた。今年こそはと優勝を狙う。

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「ハーレー期間中は女を捨てています」と笑顔をみせつつも心優さんの眼差しは真剣だ。日焼け止めを塗り直す暇もないほど忙しい。大学4年生で卒論にも追われているが練習への参加は欠かさない。彼女の役割は漕ぎ手たちの動きを記録し、フィードバックを行うこと。動画やタイムの記録からチームのわずかな変化や進化を見逃さずに支えている。

「みんなを勝たせたいという気持ちがあるので頑張っています」と話す心優さんの言葉は、漕ぎ手たちと同じくらいたくましい。小中学生のころは自身も選手としてハーレーに出場していた。実家もハーレーに関わり続けてきた“筋金入り”の家庭。高校進学後は漕ぎ手を離れたが、「支える側」としてチームに貢献する道を選んだ。

地元・中村の悲願、20年ぶりの優勝へ

ある日の練習後、心優さんは興奮を抑えきれなかった。「今日めっちゃ速いです!仕上がってます!」。彼女が特に注目するのは糸満ハーレーの見せ場でもある「クンヌカセー(転覆競漕)」だ。レース中に船を一度わざと転覆させたあと、海水をかき出し再びレースを始めるこの競技では海水をかき出す「ユークマー」から全員が乗り込むまでの時間短縮が重要になる。

「勝つことはもちろん大事。でも、子どもたちに優勝した姿を見せたい。それが、伝統を未来へつなぐ力になる」と心優さんは仲間の練習を支えた。

涙の総合優勝、その瞬間に立ち会って

いよいよ迎えた本番当日。サンティンモーと呼ばれる市街地にある丘から旗が振り下ろされ、レースが始まった。

中村は、圧巻のレース展開を見せ御願(うがん)バーレーで優勝を果たし、青年団ハーレー、クンヌカセーでも次々と勝利を重ねた。

応援の声が高まる中、勝負を決するアガイスーブ。総距離2,150メートル、ハーレー最長の競技だ。心優さんの声援に応えるように、中村の舟はしぶきをあげながら波を切って進んだ。

結果は──20年ぶりの総合優勝。「漕ぎ手以上に頑張っている心優に、優勝旗を渡したかった」。アガイスーブの舵取りを務めた玉城亨さんの言葉に、チームの絆がにじんだ。

未来へつなぐバトン

「マネージャーをやっていて本当によかった。みんなと悩んで、喜びを分かち合えるのが嬉しい」と心優さんは話す。すでに彼女の視線は来年を見据えている。「もっと強い中村になるよう、もっとサポートを頑張りたい」。

450年以上にわたって大切に守られてきた海人(うみんちゅ)の街の伝統、そしてその魂は若い世代の情熱によってこれからも確実に受け継がれていくことだろう。

(沖縄テレビ)

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