多くの地域で絶滅危惧種に指定される希少植物「ヒメザゼンソウ」が、福井県内のとある群生地から突如として姿を消した。現場には無数の穴があり、“何者かに盗まれたのではないか”と地元は騒然とした。県が設置した盗掘防止の看板の効果もむなしく、防犯カメラには次々と根っこを掘り起こす犯人の姿が映っていた。

“根こそぎ”姿を消したヒメザゼンソウ
「根が切られてこんな風になっている…かわいそうに」
こう話すのは、野鳥や植物の写真愛好家の男性だ。

福井県内に住む男性は5月23日、ヒメザゼンソウの群生地に撮影に出かけた。そこで目にしたのは、シャベルのようなもので掘られた数十カ所の穴。ヒメザゼンソウが文字通り“根こそぎ”姿を消していたのだ。
「写真で撮るのはいいが、持って帰ることは本当に腹が立つ。悲しい」と憤る。

県域絶滅危惧種に指定
「ヒメザゼンソウ」はサトイモ科の多年草で、小さい花を覆う4センチほどの赤紫色をした仏炎苞が特徴。希少な植物で、福井県内で確認されたのはわずか5つの市町で、県域準絶滅危惧種にも選定されている。
実はヒメザゼンソウの盗掘被害は2年連続だ。県は2024年に設置した盗掘禁止を周知する看板を張り替えるなど、対策を強化。防犯カメラも設置した。

注意喚起の看板設置もむなしく…
カメラ設置から6日後の6月2日、県が防犯カメラの映像を確認すると、そこには犯人の姿が映っていた。
その正体はなんとイノシシだった。暗闇で目を光らせ、一心不乱に土の中を掘り起こしている。
相手がイノシシでは、注意を呼びかける看板も効かないはずだ。

ヒメザゼンソウは産地が限られている植物でもある。地元の市町ではイノシシ捕獲用のはこわなやくくりわなを設置。県はイノシシ捕獲を継続して市町に依頼するとともに、監視カメラの設置を続けて生育状況を確認していくことにしている。