「本当に、存亡の危機だと思っています」創業90年の歴史を誇る銭湯が、世界情勢の波にのまれている。福井市で長年地域に親しまれてきた老舗の銭湯は、高騰する燃料代に頭を悩ませている。
1月に入浴料を値上げも…重油価格高騰ですでに価格維持が困難に
福井市足羽にある「たきのゆ」は、創業90年を迎える老舗の銭湯。長きにわたって地域住民の生活に根ざしてきた。
現在の大人1人当たりの入浴料は530円。近年の物価上昇を受け、今年1月に値上げに踏み切ったばかり。
しかし、その後の中東情勢の影響により、すでにその価格を維持することすら難しくなっているという。
銭湯の経営を直撃しているのが、湯を沸かすボイラーの燃料として使われるA重油の価格急騰だ。
経営者の長谷川多聞さんによると、これまで約1年間は1リットルあたりおおむね90円前後で推移していた仕入れ値が、わずか1カ月のうちに1.5倍以上に跳ね上がったという。
「ここ1年ずっと90円前後でしたけど、そこから急に50円アップ」と困惑の表情を見せる長谷川さん。4月の月間使用量は8000リットル。50円の値上がりを単純に計算するだけで、重油だけで月40万円ものコスト増となる計算だ。
営業努力では埋められない経費の上昇
燃料費の高騰を受け、たきのゆでは4月から営業時間を1時間短縮した。また、ボイラーの設定温度を下げることで燃焼効率を高めるなど、できる範囲での経費削減に取り組んでいる。それでも、苦しい経営状況が続いているという。
長谷川さんは「世界的な原油不足が、お湯を沸かして商売する自分たちにこんなに直結するとは…ここまで想像していなかった」と語る。
本来であれば、経営を維持するための対応策として入浴料の値上げが考えられる。しかし、銭湯の入浴料は事業者が自由に設定できるものではなく、知事の了解が必要となるのだ。
今年1月の値上げの際には、申請から約5カ月を要した。
この「タイムラグ」に耐えられない、というのが銭湯経営の現状だという。
急激な燃料費高騰に対して、値上げという手段では対応が間に合わない。影響は業界全体に広がっていて、福井県内の銭湯業者でつくる組合に加盟する11の銭湯のうち、営業時間の短縮や休業日の増加を実施・検討しているのは、すでに8カ所に上っているという。
そこで組合では、行政への財政支援を求める事になった。
同業組合が県に緊急要望、支援制度の創設を訴える
長谷川さんが理事長を務める銭湯の同業組合は5月8日、県に緊急の財政支援を要望した。内容は、燃料価格が一定水準を超えた場合にその相当分を補助する制度の創設など。
長谷川さんは「社会的なインフラに準ずる立場だと思うので支援してもらえたら」と訴えた。不安定な中東情勢の長期化を見越し、継続的な仕組みとしての支援を求めている。
県側も原油価格高騰の深刻さを受け止めており、6月初旬にも国へ支援を要請する方針だ。組合からの要望内容も含め、重油の確保や財政支援について強く求めていく方針を示している。

先の見通せない中東情勢が、銭湯にも暗い影を落としている。
