静岡県浜松市で78歳の男性が運転する軽トラックが小学生の列に突っ込み、児童4人が死傷した事故。男性は「事故当時の記憶がない」と話した上で、過去にも事故を起こしていたという。後を絶たない高齢者による事故。認知機能検査や高齢者講習を実施する自動車学校を訪ねた。
高齢者の認知機能検査の現場
静岡市葵区にある県自動車学校で毎日のように行われている認知機能検査。
運転に必要な記憶力や判断力を判定するためのもので75歳以上のドライバーは3年に一度、この検査をクリアしなければ免許を更新することができない。

内容は指定された数字に斜線を引いたり、日付をたずねられたりと様々だが、中でも多くの人を悩ませていたのがモニターに映し出された16枚の絵を記憶して名称を書き出すテストだ。
スラスラと書き進める人がいる一方、1つも思い出すことができないまま回答を断念する女性も。

そこで、この女性に免許の返納についてたずねると「子供たちから『もう(運転は)いいにしたら?』と言われる。18歳から(車に)乗っているからもういいかな」と返って来たものの、女性は自らの運転で自動車学校を後にした。
静岡県警よると、2024年に県内で認知機能検査を受けた人は約11万人。
そのうち約2%、2500人近くが「認知症のおそれがある」と判定されたという。
検査後の運転技能に不合格はない
認知機能検査に合格すると続いては高齢者講習となる。
視力や視野の測定に加え、指導員を乗せて運転技能を確認するが試験ではなく不合格はない。

静岡県自動車学校 静岡校の渡邊祐二さんは「運転が本当に危なくて、これ以上運転したら事故を起こしてしまうというような人には(免許返納を)勧める場合もあるが、皆さん自信をもって運転しているので、なかなか難しいところはある」と実情を吐露する。
運転能力が低下した高齢者のほうが「運転に自信あり」?
県警では凄惨な事故を1件でも無くすため高齢ドライバーに対する免許の自主返納を呼びかけているが、その数は2019年をピークに年々減少傾向にある。

また、専門家の中にはそもそも運転免許の返納が事故の減少につながっていないと指摘する人もいる。
山梨大学の伊藤安海 教授は「運転能力が落ちている人の方が『まだまだ若い者には負けない』とか、『昔と運転能力は変わっていない』と言って自己評価が高い。運転が危ない人は自分の運転が危ないから免許を返納するということにはつながらない」と調査に基づく分析をしている。

リスクマネジメントを専門とするコンサルティング会社が行った調査では、日常的に車を運転している1000人を対象に「運転に自信があるか」を聞いたところ、20歳から74歳までは自信があると答えた人の割合がいずれも5割を切る一方、75歳から79歳については6割を超えた。

伊藤教授は「周りで見て『この人は危険だな』と思った時に『やめなさい』と言うのではなく、そんなに自信があるのなら、しっかりと専門家に見てもらう、然るべきところで検査を受けてもらうという形で、定量的に能力を評価するところにつなげることが大事」と話す。
AIを活用して定量的で客観的な能力評価を
こうした中、県自動車学校では2024年、運転技能を定量的かつ客観的に評価するサービス「セフモ」を県内で初めて導入した。車に取り付けられたカメラやGPSで運転の特徴を記録し、AIが100点満点で判定する。

記者が体験してみると、減点はなかったものの「もう少し左に寄ってから曲がるほうがいいかもしれない」と助言を受けた。
この「セフモ」の所要時間は長くても50分と、その手軽さも魅力の1つとなっている。

「運転を他の人に評価されるのではなくAIが実際に診断することで、認知症傾向のある人の運転と比較してどうかということがわかる」とこのシステムのメリットを解説してくれた県自動車学校 静岡校セフモ担当の中嶋貴夫さんは「法令での免許更新は3年に1回だが、人間ドッグのように1年に1回のペースで自分の運転を振り返ってもらい、できるだけ安全運転を継続する、その手伝いをしたい」と思いを語った。
「自分だけは大丈夫」
そんな慢心が重大な事故につながることがないよう、定期的に自分自身の健康状態や運転技能を見つめ直すことの大切さを改めて強く感じた。
(テレビ静岡)