「保育園の洗礼」―子どもが保育園や幼稚園で初めて集団生活をする中で、風邪などにたびたびかかることを指す。小さい子どもを抱えながら仕事を再開し、子育てと仕事の両立を目指す保護者には悩みが深い問題だ。一方、職場でも少しずつ「休みがとりやすい」体制作りが進んでいる。急な早退にも対応できるよう、独自の有給休暇を設ける企業を取材した。

初めての集団生活で「洗礼」

長野市のころぽっくるこども園の年少クラス。4月に入園した子どもたちも、少しずつ新しい生活に慣れ始めている。

4月に入園した女の子は目を潤ませながら「ママがいい」と話しつつも、園で楽しいことは「おままごと」と話した。同じく4月に入園した男の子は、「楽しい!元気に過ごしたい」と話した。

こまめに手洗い
こまめに手洗い
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こまめな手洗いのほか、3歳未満児のクラスでは1日2回の検温など、園では日常的に感染症への対策をしているが、この時期は特に気を付けている。

1日2回の検温
1日2回の検温

その理由は「保育園の洗礼」だ。

数年前から使われ始めた言葉で、子どもが初めて集団生活をする中で、風邪などにたびたびかかることを指す。

職場復帰後すぐに何度も休むことに

2歳半の子どもの保護者は、子どもが通園し始めたころの登園状況について、「1カ月のうち2週間通えればいいくらいで、ひどいときは3日とか4日しか通えなかったときもありました」と話した。年長と小3の子を持つ保護者は「0歳で預けたので、最初の頃は1か月に1回は必ず呼び出しがあって、熱が出て仕事を休むのが続いた」と話し、いずれも「保育園の洗礼」を経験していた。

ころぽっくるこども園
ころぽっくるこども園

子どもの体調も心配だが、保護者は看病などのために会社を頻繁に休まざるを得ないことにも悩んでいる。特にこれまで育休中だった保護者は職場復帰後、すぐに何度も休まなくてはならない。

保護者がお迎え
保護者がお迎え

慣らし保育中の保護者は「5月から職場復帰なんですけど、熱出ちゃって呼ばれたりとか、自分の有給もどのくらいあるかなとか把握しながらやらないとと思って、ちょっとそこが不安なところ」と心配そうに語った。

医師「洗礼は避けて通れない」

「保育園の洗礼」を避けることはできるのだろうか?

長野県松本市の高島小児科医院には「保育園の洗礼」を受けた子どもたちが受診していた。

診察を受ける子ども
診察を受ける子ども

「経過からいっても胃腸炎、感染性胃腸炎です」

医師が診察した1歳3か月の子どもは、「感染性胃腸炎」と診断された。園内で流行しているという。

高島小児科医院・水野史医師は「保育園の洗礼は避けて通れない」と話す。「細菌やウイルスも、今までよりもかなり多く入ってくることになります。いろんな病原体に接して、咳・鼻ですとか、体も弱いものですから、熱を出す回数も多いと思います。そういうことを繰り返して、体が丈夫になっていく。免疫、抵抗を作ってくっていうことになりますね。どうしても避けて通れないところですよね」と述べた。

高島小児科医院 水野史医師
高島小児科医院 水野史医師

入園後3カ月ほどは毎週のように発熱し、その後も季節性の感染症などで、1年ほどは頻繁に体調を崩す子どもも多いという。

「復帰して1週目にコロナに…」

避けて通れない保育園の洗礼。子どもの体調不良で急に仕事を休まざるを得ない現状を、職場も理解する必要がある。

八十二銀行松本営業部の永田唯奈さん(31)は、2022年3月に双子の男の子を出産し、2024年4月に復職した。

永田唯奈さん
永田唯奈さん

しかし、復帰して間もなく「保育園の洗礼」があった。

永田さんは「本当に、復帰してまず1週目で(子どもが)コロナにかかって1週間お休みをして、その次また1週間インフルエンザにかかってお休みするなどして、実体験として本当に大変だったなというような思いはあります」と語った。

永田さんの双子の子ども(永田さん提供)
永田さんの双子の子ども(永田さん提供)

共働きだった永田さん。夫は当初、単身赴任をしていたため1人で子育てしていて、頻繁に会社を休む必要があった。

永田さんは「(同僚などに)本当に申し訳なくて、『すみません』って話をしていたんですけど、ある時、職場の部長から『すみません』なんて言ってたら今の時代逆に良くないから、当然ですという顔で休んでればいいんだからと」と話した。

1分単位で取得できる有休を整備

共働きも多い八十二銀行。2022年に子どもが満2歳になるまで1分単位の有給休暇を10日分使える制度を設けた。

八十二銀行人事部ダイバーシティ推進室の北條有咲さんは「保育園からいきなりお迎えの電話が来た時とかに1分単位で使えるので、そういう意味ではすごく保育園の洗礼に対しては使いやすい制度になっているかなと思います」と話した。

八十二銀行人事部ダイバーシティ推進室 北條有咲さん
八十二銀行人事部ダイバーシティ推進室 北條有咲さん

永田さんも子どもが胃腸炎で入院することもあったが、会社の理解もあり働き続けることができたという。

永田さんは「職場の仲間もすぐにフォローしてくれるような体制で支援してくれたので、なんとかやってこれたかなっていうふうに思います」と話した。

子どもが胃腸炎で入院したことも…(永田さん提供)
子どもが胃腸炎で入院したことも…(永田さん提供)

八十二銀行では、こうした制度を男性も取得しやすいよう、性別にかかわらず制度を使いやすいように配慮しているという。

北條さんは「社会的にもやっぱり女性に家事、育児の負担が偏ってしまっているのは課題でありますので、弊行内の夫婦も多いので、そういった夫婦は特にですね、女性ばっかりに負担が偏らないようにぜひ分担してやってくださいねっていうのは意識して伝えるようにしてます」と語った。

「出社時は精いっぱいの貢献を」

また、育休中やその前後で人事部や上司と面談する時間を設けているほか、管理職などへの研修も行い、急に仕事を休んでも問題ない職場づくりを行っている。

人事部との面談
人事部との面談

育休前後の研修内容について、北條さんは「(急な休みなどが)発生するときはある制度を活用して乗り切ってほしいっていうところと、あとは出社できている時には自分にできる精いっぱいの貢献もできるように意識してほしいっていうことを伝えています」と話した。

理解を深め、休みやすい体制づくりを

職場復帰して1年が経つ永田さん。現在、3人目の子どもを妊娠中で、間もなく産休に入る。その後、再び復職する予定だ。

永田さんは「周りの人がすごく理解があるので同じ環境であれば3人目も育てられるかなと思って選択したっていうのはありますね」と話す。

八十二銀行 松本営業部
八十二銀行 松本営業部

北條さんは「もしかしたら自分がこの後、介護に直面するかもしれないし、病気になって治療しないといけなくて、それでも仕事続けなきゃいけない状況にいつ誰が陥るかわからないので、いろんな私生活の事情があるっていうところを皆さんに理解していただいて、お互いさまっていうところの気持ちは(八十二銀行では)どんどんいろんな職場で育まれてきているなっていうのは感じます」と述べた。

「保育園の洗礼」だけでなく、「介護」などでも仕事を急に休まざるを得なくなる。

一方、「急な休み」により職場もその分負担が増す。

八十二銀行の担当者は労働人口も減る中で誰もが働きやすい環境を作るために、社会全体が理解を深め休んだり早退したりしやすい体制づくりをしていく必要があると話している。

(長野放送)

長野放送
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