現在でも一部の地域では、こうしたニンジンが栽培されてはいます。しかし、「ニンジン色」といえば即ちオレンジ色を指すほどに、新しい種が好まれていったのです。
オレンジ色の正体はカロテンです。言い換えれば、カロテンを豊富に作る遺伝子が選好された形です。当時、栄養学は未発達ですから、おそらく含有成分の観点ではなく、「食欲を刺激する色」が選定の主な理由だったことでしょう。
開花すると食べられなくなるから…
2つ目は「開花時期」です。ニンジンは開花すると木質化して食べられなくなるため、開花時期を遅らせる遺伝子が選択されてきました。
ちなみに現在のニンジンの収穫時期は主に9月~12月ごろ、開花時期は翌年の6月ごろです。
なるほど。経緯を考えれば歴然。ニンジンは紛れもなく緑黄色野菜だったのだ――。と早合点してはいけません。緑黄色野菜は誤解を与えやすい名称です。実は「色」が決め手ではありません。

厚生労働省は「可食部100gあたり600ナノグラム以上のカロテンを含む野菜」と基準を定めています。これ以外の野菜は「淡色野菜」と呼ばれます。
こうした定義ですから、紛らわしいケースにしばしば出くわします。ナスやトウモロコシは色は濃いですが、カロテンの含量が少ないので淡色野菜です。
また、サニーレタスは緑黄色野菜ですが、レタスは淡色野菜です。ニンジンはカロテンが豊富になるように品種改良された野菜ですから、もちろん緑黄色野菜です。
そんな視点で野菜ジュースのパッケージを眺めると新たな発見があるかもしれません。

池谷裕二
1970年静岡県生まれ。薬学博士。東京大学薬学部教授。脳研究者。2024年、『夢を叶えるために脳はある』で第二十三回小林秀雄賞を受賞。著書に『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』『脳はなにかと言い訳する』『パパは脳研究者』『生成AIと脳』など。
(※)Coe, K. et al. Population genomics identifies genetic signatures of carrot domestication and improvement and uncovers the origin of high-carotenoid orange carrots. Nat. Plants 9, 1643–1658 (2023).