天皇皇后両陛下は4月7日、太平洋戦争の激戦地・硫黄島を初めて訪問されました。3カ所の慰霊碑を回って戦没者らを悼み、遺族らとも懇談されました。訪問を通して戦争の悲惨さを肌で感じ、平和の尊さを心に刻まれました。

戦後80年の節目に当たる『慰霊の旅』最初のご訪問

天皇皇后両陛下は、4月7日、硫黄島を訪問されました。戦後80年の節目に当たる、両陛下の「慰霊の旅」の始まりです。

都心から1200キロ離れた小笠原諸島の硫黄島。太平洋戦争末期、アメリカ軍が上陸し、激しい地上戦が繰り広げられました。

硫黄島(東京・小笠原村)平成31(2019)年3月撮影
硫黄島(東京・小笠原村)平成31(2019)年3月撮影
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火山島の硫黄島で、日本軍は地下壕に拠点を築いて応戦しますが、猛烈な暑さと深刻な水不足の中、1カ月以上にわたる持久戦の末、日米合わせて3万人近くが犠牲になりました。今なお、1万柱以上の遺骨が回収されていません。

海軍医務科壕 平成31(2019)年3月撮影
海軍医務科壕 平成31(2019)年3月撮影

硫黄島には戦後50年を控えた平成6年、上皇ご夫妻も訪問されています。慰霊碑をまわり深く拝礼されたご夫妻。訪問後「祖国のために精魂こめて戦った人々のことを思い、遺族のことを考え、深い悲しみを覚えます。今日の日本が、このような多くの犠牲の上に築かれたものであることに深く思いをいたします」と感想を寄せられました。

平成6(1994)年2月 上皇ご夫妻 硫黄島ご訪問
平成6(1994)年2月 上皇ご夫妻 硫黄島ご訪問

陛下は2月、誕生日会見で「今年、戦後80年という節目を迎え、各地で亡くなられた方々や、苦難の道を歩まれた方々に、改めて心を寄せていきたいと思っております。そして、戦争の記憶が薄れようとしている今日(こんにち)、戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に、悲惨な体験や歴史が伝えられていくことが大切であると考えております」と平和を願う思いを述べられています。

2月 天皇陛下 65歳の誕生日会見
2月 天皇陛下 65歳の誕生日会見

まず両陛下が向かわれたのは、「硫黄島戦没者の碑(天山慰霊碑)」。日本軍の犠牲者を追悼するため、最後の拠点となった地下壕の上に建てられています。皇居から持参した白いユリなどの花束を手向け拝礼されました。

硫黄島戦没者の碑(天山慰霊碑)で拝礼される両陛下
硫黄島戦没者の碑(天山慰霊碑)で拝礼される両陛下

そして水不足で渇きに苦しんだ戦没者をなぐさめるため、ひしゃくで慰霊碑に水をかけ
「献水(けんすい)」されました。

硫黄島戦没者の碑(天山慰霊碑)で献水される両陛下
硫黄島戦没者の碑(天山慰霊碑)で献水される両陛下

続いて「硫黄島島民平和祈念墓地公園」へ。軍属として徴用され犠牲となった82人の島民をまつっています。遺族や元島民の親族らが見守る中、慰霊碑に進み、花を手向け祈りを捧げられました。

硫黄島島民平和祈念墓地公園の慰霊碑に花束を供えられる両陛下
硫黄島島民平和祈念墓地公園の慰霊碑に花束を供えられる両陛下

日米すべての犠牲者を悼むために建立された「鎮魂の丘」にも出向かれた両陛下。献水し犠牲者に祈りを捧げられました。

「鎮魂の丘」で献水される両陛下
「鎮魂の丘」で献水される両陛下

自衛隊の基地に戻り、戦没者の遺族と懇談した両陛下は、戦争で父や祖父を亡くした遺族の思いや苦労話に耳を傾け寄り添い、一人一人に「お体にお気を付けて」と声を掛けられました。

犠牲者の遺族らと懇談される両陛下
犠牲者の遺族らと懇談される両陛下

硫黄島の戦いで祖父を亡くしている、硫黄島遺族会の志村高子事務局長代理は「硫黄島の地に足をお運びくださり、皇室内でもこうした慰霊の気持ちを受け継いでくださっていることに改めて感謝したいと思います」と述べました。

硫黄島遺族会 志村高子事務局長代理
硫黄島遺族会 志村高子事務局長代理

戦時中、硫黄島の島民は強制的に疎開させられました。80年経った今でも、島の火山活動などを理由に上陸が厳しく制限され、帰島は叶わないままです。両陛下は、今も島に帰れない島民の思いに耳を傾けられました。

小笠原協会 渋井信和会長
小笠原協会 渋井信和会長

帰島に向けた支援を行っている小笠原協会の渋井信和会長は「天皇陛下から『本当に皆さんご苦労なさったんですね』って言われまして」と懇談を振り返り「戦争のことを忘れてないということを、陛下自ら、姿としてお示しになることによって、日本国民が、やはり戦争の悲惨さというものを決して忘れないでいただきたいなということを、強く今日感じました」と話しました。

政府専用機に乗り硫黄島を後にされる両陛下
政府専用機に乗り硫黄島を後にされる両陛下

戦争を知らない世代に歴史を継承することが重要と考えられている両陛下。今回の訪問で改めて戦争の悲惨さを肌で感じ、平和の尊さを心に刻まれました。2025年は沖縄、広島、長崎にも足を運び『慰霊の旅』を続けられます。
(「皇室ご一家」4月13日放送)

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