岩手県西和賀町の県立西和賀高校が、近年入学志願者の増加により県立高校としては20年ぶりに募集定員を増やした。全校生徒105人の小規模校ながら、町外からの入学生が約7割を占め、生徒たちは「めちゃくちゃ楽しい」と口を揃える。手厚い授業や地域との連携、経済的支援など、魅力的な取り組みが生徒を引き付けている。
「めちゃくちゃ楽しい」小規模校の魅力
岩手県西和賀町にある西和賀高校は、全校生徒105人、1学年1クラスの小規模校だ。
2024年には定員を4人超える44人が入学し、県内の1学年1クラスの高校11校のうち唯一定員を満たした。
現在、町外から入学した生徒は全校の約7割を占めている。

この人気を受けて、募集定員は40人から80人に増加。県立高校としては20年ぶりの定員増となった。3月の入学試験では67人が合格し、4月からは1年生のクラスが2つに増える予定だ。

生徒たちからは「めちゃくちゃ楽しい」「先生との距離も近くて相談できるところがいい」「自分に合った環境でいいと思った。ぜひ西和賀高校に入ってください」という声が聞かれた。
習熟度別授業で学びを深める
少子化などにより、県立高校の生徒数が年々減少する中、西和賀高校の人気の背景には、生徒への手厚い授業や支援、そして地域の人とのつながりがある。
西和賀町教育委員会の柿崎肇教育長は、小規模校ならではの教員とコミュニケーションを取りやすい授業が生徒の増加に結びついていると話す。

西和賀町教育委員会 柿崎肇教育長:
知らないことは正直に「わからない」としっかり言えて、自分の学びを深めていける環境があるので、それを求めて子どもたちは西和賀高校を目指している。そして(生徒が)増えてきたと認識をしている。

西和賀高校の最大の魅力は授業にある。数学と英語で行われている習熟度別の授業では、学びの深さに合わせ1つの教科が3つのクラスに分けられる。
小規模校のクラスを細分化することで、生徒と教諭の距離がより近くなり、授業中は積極的に発言が飛び交い学びはより深まる。

北上市から通学する1年生は「自分の発言に先生たちが応えてくれるので、自分が思ったことを言える環境があるのはいいと思う」と話す。
別の生徒は教諭の教え方について「確かにそう、めちゃくちゃおもしろい。先生の過去の経験とか雑談も入ってくるので(授業中は)元気だし、大変わかりやすい」と語った。
地域と連携した探究学習
西和賀高校では、町の人たちと連携した授業も行われている。
「総合的な探求の時間」では、2年生の生徒たちが地域資源を活用し町の魅力を発信するアイデアを発表した。

生徒の中には、町の名物「ビスケットの天ぷら」を多くの人に食べてもらうため、急速冷凍して土産品として販売するアイデアを発表。町をあげて地域の課題解決に取り組む授業も西和賀高校の特徴だ。

町内から通学する2年生は「自分のやりたいことについて探求できるというのは、楽しみながらできるので、すごくいい時間になっている」と話す。
町内のカフェ経営者の瀬川瑛子さんは「自分が考えたものが形になって食べてもらって『おいしい』と言われたら純粋にうれしいと思う。何かつくり上げるのはおもしろいと思ってもらえたらいいなと思う」と生徒たちの取り組みを評価した。
町による手厚い支援
西和賀町は、関係人口の増加をねらい高校生たちの支援を進めてきた。
通学には町内で運行されている「高校生以下無料」のバスを利用できるほか、昼食の時間に合わせて高校に届けられるおかずは町が代金の一部を補助している。
こうした取り組みは保護者のサポートすることにもつながっている。
西和賀高校の千葉賢一副校長は「町・地域・保護者の支援は絶大。それを生徒たちが受けて私たちの想像以上、予想以上の成果を見せてくれている」と話す。
寮生活で広がる可能性
高校から1キロほど離れた場所には、女子寮「遊古林」がある。町内にある温泉街の湯本地区でかつて旅館だった建物を町がリフォームした。
男子寮も含め町内には西和賀高校の生徒の寮が3棟整備されていて、ここも町が費用の一部を補助している。
寮の風呂は贅沢な温泉で西和賀の豪雪で冷えた体も一気に温まりそうだ。

埼玉県出身の1年生・木村朱里さんは、親元を離れ何かに挑戦したいという思いから西和賀高校に進学した。
「ローイング部があるというのがすごく惹かれたし、寮もすごく良さそうだったので(高校に)ここなら安心して行けると思った。目指しているのは医療系、作業療法士とか看護師とか。西和賀さわうち病院の話をよく聞かせてもらうので」と話す。

6年前から遊古林の寮母を務める高橋順子さんは、生活を共にしながら不安と希望を抱え西和賀高校を選んだ寮生たちの心の移り変わりを見つめてきた。
高橋さんは「もちろん、かわいいです。何を食べたいかなとか、何をしたいかなとか常に考えている。(考えを)話してもくれるので、気持ちにちゃんと応えたい。かわいいです、とても」と笑顔で語る。

埼玉県出身の1年生・根岸菜乃陽さんは「(高橋さんに)自分の家のレシピを教えると、自分の家(の料理)と似たような味をつくってくれることもあって、家と変わらない、お母さんみたいな存在」と話す。

高橋さんの愛情はこの町で3年間を過ごす生徒たちの心のより所になっている。
未来を見据えた教育
全国大会の常連ローイング部の指導にあたる笹川美紀子教諭は、かつてこのローイング部に所属していた西和賀高校の卒業生でもある。

笹川美紀子教諭は「生徒一人一人がいろんな活動にチャレンジできる機会が増えている。地域の人たちと接する機会も増えたし、私がいたときより可能性が広げられる学校になっていると思う」と母校の変化を語る。
西和賀高校を選び、毎日を生き生きと過ごす生徒たち。教諭や町の人の温かさに触れ豊かな心を育みながらさらなる学びを深めている。
人口約4600人(2025年2月末時点)、高齢化率55.2%(2024年10月時点)の小さな町で、若者たちの可能性が大きく広がっている。
(岩手めんこいテレビ)