聞いた話では(なので、統計的に検証したわけではないが)現代で流行する話には、女性神話の方が多いということだ。
SNSを見ていると、なるほど確かにと思う。SNSは「何者かになりたい」人々にあふれ、「何者かになれた」と自認する人々が自己主張をし、それに対して羨望や嫉妬の声が上がり、簡単に「何者かになる」ための広告が氾濫している。

欲望も、それを叶える手段も、どんどんインスタントになり、本質的な意味で自分を鍛えるよりも、“5分で稼げる方法”に手を伸ばす人ばかりだ。これは女性神話で満たされる欲望に形が似ている。物語で語られる主人公の精神は、もっと高潔で高尚ではあるのだが。
欲望が肥大化するSNS
とはいえSNSにおいて、こうした形で欲望が肥大化するのは、とても自然なことであろう。フランスの哲学者ルネ・ジラールが提唱した「模倣の欲望理論」によれば、そもそも欲望は他者の影響によって形成されるもので、自己発生的なものではないという。
欲望が他者を模倣することによって生み出されるものだとしたら、他者とのコミュニケーションを加速させるSNSは、まさしく無限の欲望発生装置に他ならない。
模倣の欲望理論について解説した『欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア』(ルーク・バージス著/川添節子訳/早川書房)でも、同様の示唆が見られる。
同書はFacebookを「単に友人の近況を知るだけのツール」ではなく、「本物と理想のアイデンティティをつくりあげるツール」としたうえで、「そこでは美しく整えられた他人の人生がモデルとして絶え間なく流れている。私たちをとらえて離さない魅力の源であり、相反する感情の源である」と述べている。